初恋 14
初恋 14








まだ飲んでいる他のメンバーに断って風呂に入り、屋根裏の小部屋に戻る。
流河には気にせず飲んでいろと言ったのだが、やはり着いて来た。


「夜神くん、パジャマの替えは持って来てます?」

「いや?万が一汚したら翌日の服を着て寝れば良いし」


持って来ていないのか?
しかも他人のパジャマを借りる気なのか?
と、軽く引いた所で、


「それもそうですね」


背後から声がしたかと思うと、突然目の前が真っ暗になった。
殴られた?!
いや……。

息、が……。

目元からすうっと冷たくなり、感覚が消えていく。




気付けば目の前には斜めになった低い天井が見えていた。
ああ……ベッドに寝ているのか……合宿所の……。

数秒ぼんやりした後、気を失う前の事を思い出す。
どうやら僕は、流河に後ろから絞められて、落ちたようだ。

高校時代の柔道の授業以来だな……。


って、いや!


何か不自然な格好をしていると思ったら、僕の両手首は拘束されて
ベッドヘッドに固定されているらしい。
起き上がろうとしても、全く起き上がれなかった。


「流河!」

「はい」


気配が無かったから大声で怒鳴ったのに、すぐ傍から返事が返ってきて
余計に腹が立つ。


「これはどういう事だ」

「夜神くん。あなた、自分の立場をわきまえた方が良いですよ」

「はあ?おまえこそ、こんな事をして只で済むと思うなよ」

「それもあなたが無事にこの部屋を出られたら、ですよね?」


目の眩むような怒りと、一抹の恐怖。
非常識の塊……僕を誘惑すると、わざわざ口に出したL。
僕が欲しいと抱きしめた、L。
こいつ……まさか本気じゃないよな?


「……要求は、何だ?」


取り敢えず静かに言ったが、声が怒りに震える。
流河は親指の爪を噛みながら、目を見開いてニヤリと笑った。


「要求は、今後私の要求を全て呑む事です」

「無理だ」

「と言われても他に選択肢はありませんよ?」

「少なくとも二択はあるだろ。このまま舌を噛んで死ぬとか」

「絶対に選ばない選択肢は、選択肢とは言いません」

「……冗談だろ?」

「冗談ではありません。一つ目の要求は」


ギシ、膝をベッドの上に突いたのか、簡素なベッドが軋む。
流河は獲物を狙う肉食獣の静かさで、僕の上にのし掛かってきた。


「まず、キラだと認めて下さい」


……性急だな。
まあ、分かっては居たが。


「違う……」

「そうですか、ならばこれは後ほどで良いです。
 二つ目は、私を受け入れて下さい」

「は?!」


受け入れるって……何を?
というかそんな事、この跨がられた体勢で言われても洒落にならない。


「冗談だって、言ったじゃないか。肝試しの時は」


流河は蔑むように僕を見下ろした後、僕のシャツの裾を摘んだ。


「やめろ!」

「あの時は、そう言わなければ収まりそうになかったので」

「待て!待てって。
 僕を、その、どうこうしたいのなら、もっと時間を掛けるべきだろう。
 こんな、いきなり縛って、僕がおまえの言う事を聞くとでも」


流河は動きを止め、顔を上げて本気で驚いたように目を見開いた。


「時間……掛けましたよ?
 あなたが好きだと言いました。あなたを抱きたいと伝えました」

「いや、でも、」

「その上で、私は欲しい物は手に入れると宣言もしました。
 私を甘く見て、対策も警戒もしなかったあなたが悪いんです」

「……」


頭……おかしいだろ!
本当にこいつは世界一の頭脳と言われたLなのか?
Lの振りをして僕に近付いたストーカーなんじゃないか?

いや、東大に首席で入った事を考えても、今までの会話から考えても
こいつがただの狂人ではあり得ないのは分かって居るのだが。


「あなたは私に、合宿から戻ったら近付くなと言いました。
 だから私にはもう時間がありません」

「……」

「今夜中にあなたを私の物にします。どんな事をしてでも。
 それが出来ない位なら、あなたを殺した方がマシだ」


嘘だろ……。
それってこのまま、僕をレイプするという意味か?
男に、性的暴行を受ける事など想像した事もない。

……いや。
これはある意味チャンスだ。
デスノートを使う事を決めた時から、新世界創造の為には……
「キラ」を守る為ならどんな泥でも被ると決めた筈。

体を許す振りをして、こいつに無理矢理暴行されそうになった、という事実を捏造する。
この縛られた手首も都合が良い、土壇場で先輩達を呼んで、警察に通報……
いや、Lなのだから揉み消されるか……。

それでも、もう大学には顔を出しづらくなる筈だ。


「僕を……好きなのか?」

「はい」

「男だけど」

「分かって居ます」


流河は、僕の頭の両側に手を突いて、真顔で僕を見下ろしていた。
その顔を見ていたら屈辱に震えそうになるので、僕は目を閉じる。


「分かった……抵抗しないから、好きにして良い」

「本当ですか?」

「ああ。キラではないから、キラだと認める事は出来ないけれど」

「……」


不穏な気配に目を開けると、流河は眉を顰めて僕を睨んでいた。






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