初恋 13
初恋 13









出来るだけ音をさせないように膝を撓めてそっと飛び降りると、
流河も猫のようにしなやかに降りてきた。

懐中電灯を点けて手で覆い、先に歩き出すと流河も早足で着いてくる。


「夜神くん」

「何」

「私も率直に言いますが」

「僕がキラだという根拠でも見つかったって?」

「いいえ」


驚いて振り向くと、突然腕を掴まれて引き寄せられた。


「なっ、」


思わず素の声が出て、慌てて口を押さえる。


「私の物になって下さい」

「は?!」


腕は僕を抱きしめ、思わずバランスを崩して懐中電灯を落としてしまった。


「ちょ、どう、」

「あなたは、キラです。私はあなたが欲しいです。
 私は欲しい物は手に入れます」


流河もテンパっているのか、それともわざとか、
下手くそな直訳調の日本語で捲し立てる。


「人の話聞いてなかったのか!
 そういう気持ち悪い冗談も、確証もないキラ呼ばわりも
 止めろって言ったばかりだろう!」

「あなたこそ自分の言った事忘れたんですか?
 冗談ではありません。私は本気です。
 加えて、あなたがキラだと確信してもいます」

「……!」


狭い道で藻掻いては、水に落ちる。
と思っていたが、そんな事も言っていられない。
僕は思いきり腕を振り解いて、洋館に向かって逃げ出した。


「待って下さい、夜神くん」

「おまえ、頭おかしいよ」

「何故ですか?」

「キラを欲しいって?」

「さっきは慌てて端的に言ってしまいましたが、キラを見つけた場合
 公に司法に引き渡すよりも、私自身が管理した方が多方面に
 メリットが多いんです。そういう事も含めて欲しいと言いました」

「ならそう言えよ!僕もキラじゃないって言うから」

「……」


暗い。
道が、半月の明かりでは。
微かにきらきらと光る水面は見えているので、そちらから出来るだけ離れて歩く。

雑草が。
足を取られそうになる。
微かに白い、轍に、轍に沿って、歩き続けるんだ。


「夜神くん」

「……」

「すみません。冗談が過ぎました」

「……」


また冗談か。
あそこまでしておいて「冗談でした」で済むと思うな。
「すみません」で済めば、警察は要らない。


「待って下さい。
 このまま戻れば、きっと皆さんに気を使わせます。
 心配を掛けてしまいます」

「……」

「この合宿が終わるまでで良いですから……休戦という事でお願いできませんか?」


僕は、足を緩める。
流河はすぐに横に並び、僕の腕に手を伸ばそうとしたが……
僕の拒絶の気配に気付き、慌てて引っ込めた。


「……この合宿が終わったら、二度と僕に纏わり付くな」

「仕方有りません。でも、捜査本部への協力は、」

「それは父を通して協力する」

「分かりました」


思わず、大きく息を吐きそうになるのを抑える。

これは……災い転じて何とやら、だ。

流河は、僕を諦めた。
遠くから監視をしたり、尾行を付ける位の事はするかも知れないが
それでもずっとL本人に張り付かれるよりは、遙かに動きやすくなる。


「仲直りの握手を」


流河が、僕の手に遠慮がちに触れる。
僕は不承不承、と言った体で、その手を緩く握り返した。




「おーい!流河くんと夜神くんはいるか?!」


洋館前に戻って数分経った頃、最後のグループの世話役の先輩達が
小走りで戻って来た。


「あ!おったぁ!良かったぁ……」

「すみません、お先に戻って来て」

「いや、先に出たんやから先に戻るのは、かまへんのやけど」


膝に手を突いて、呼吸を整える。


「途中で明かり点いたままの懐中電灯が転がってたから。
 湖に落ちたのかと思って、焦りまくったよー」

「肝試しで、ここまで肝が冷えたのんは初めてやけどな。
 ほんま、次からはこんな洒落ならんのは止めてや〜」

「すみません……思慮不足でした」


本当は懐中電灯を落としてしまったのは迂闊なのだが。
何故懐中電灯を落としたのか、何故取りに戻らなかったのか
説明する訳にも行かないのでひたすら謝った。


「俺らを脅かした時は大芝居じゃったからな。
 次何ばするかと思うたら、そう来たか!じゃね」

「いやぁ、本当、久々の大型新人だな」


内心は怒っているのかも知れないが、それを毛程も感じさせない
先輩達の態度に僕は恐縮し、感謝していたが。
流河は、相変わらず我関せずと、ぼんやりと指を咥えていた。






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