初恋 8
初恋 8








不味いな……。
と、自分でも思う。

流河の事を気にしすぎて、裁きを手控えるようになってしまっている。
いっそ一旦休むべきかも知れないが、意地で少しづつ続けていた。

流河……放置しておけば、いつか僕を滅ぼすであろう男。

だが。




「聞いてます?夜神くん」

「え?」

「ですから、来年犯罪心理学取るんですよね?」

「ああ……」


大学で流河は、何事も無かったかのように、相変わらず
しつこく絡んできていた。


「で、あの先生のゼミでゴールデンウィークに合宿があるらしいんですが
 希望者の一年生も行って良いそうです」

「うん、知ってる」

「行きませんか?というか行かないとゼミ希望通りにくいですよね?」

「いや、それは行くべきだと思うけど……。
 『行きませんか』って、おまえも行くの?」

「勿論。夜神くんが行くのなら」

「……」


少し迷ったが、流河如きに自分の進路を変えられたくない。
それにもしこのゼミを諦めても、きっと同じゼミに入ってくるだろうし。


「じゃあ、私の分も申し込んでおいて下さい」

「僕が?!」

「はい。もし私の分だけ忘れたりしたら……」

「分かったから!申込書は持ってきてやるから自分で書けよ?」


そんな訳で、僕達は予定外に流河と共に大学の持っている保養所のような
合宿所に行く事になった。





「……で、後は一年生の夜神くんと流河……流河旱樹?!」

「はい私です」

「ああ……流河くん、ね。年齢欄が空欄だけど?」

「個人情報です」

「ああ……」


現役ゼミ生とゼミ希望の二年生、一年生が東京駅に集合していた。

だが、世話役の先輩は流河が扱いづらそうだ。
当たり前だ。
何を考えているのか分からない年齢不詳、だがどう見ても
先輩より年下ではなさそうなのだから。


「夜神くんと流河くんって、もしかして首席入学の?」

「はい」

「え、マジ?何でそげな事知っちょるん」

「サークル入ってきた子ぉが言うてたわ、ダブルの新入生挨拶なんか
 前代未聞やて。二人とも珍しい名前やし覚えてしもたわ」


どうやら僕達は、知らない所でも有名になってしまっているようだ。
気にする程の事でもないが。

今回のゼミ旅行は十数人ほどの小集団だった。
世話役の先輩が名簿を見て全員を確認し、几帳面に忘れ物がないか
それぞれに声を掛けた後、新幹線のホームに移動する。


「先生は今日仕事が入ってしまったそうだから明日来るよ」

「はい」

「まあ。ゼミ合宿って言ってもシーズンオフの避暑地だし、
 田舎でのんびりして夜は飲み会、っていう程度だから」


なるほど。
まあ、今回は顔を売るだけだな。


「と言っても僕は飲めませんけど」

「ああ、十八だもんね。……十八か。若いなぁ」

「大丈夫やよ、うちのゼミは別に無理に飲ませたりせえへんし
 静かに好きなように飲んでる人ばっかりやし」

「十八の時って何しちょった?」

「勉強してたなぁ。俺二浪だし」

「そうやのん?僕も二浪やけど十八の時は遊びまくっとったよ。
 そやから二浪やねんけど」


先輩同士が話し始めたので、隣でやけに静かな流河を見る。


「流河は?」

「はい?」

「十八の頃、何してた?」

「それは私が十八以上に見える、という事ですか?」

「え!違うの?」

「いえ。正解です」

「……」

「十八の頃……探偵してましたね」

「今と変わらないって事?」

「はい。キラ事件程ではないですが、大きな事件の捜査をしていました」


それから、回想するかのように少し遠くを眺める。


「その話、聞きたいな」

「無理です。有名な事件なので調べれば私の年齢が分かってしまいます」

「ああ……そう」


聞いて欲しそうにしておいて……。
いや、コイツに一般的な人間関係を求めるのは間違いだ。

僕以外の人間とコミュニケーションを取ろうとしない流河と、
先輩に萎縮して話さない二年生と、ゼミ生達の橋渡しで気を使う僕を乗せて
新幹線は走り出した。






  • 初恋 9

  • 戻る
  • SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送