人形の家「私があんな邊鄙な處に居たゝまらなくなつたのもそのためです」1
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翌日の午後、ヘリの音がしたと思うと、デスノートと
僕の服が入った箱が届いた。

それは、男物と言うか……ナチュラル系と言うのか、どこぞの民俗調なのか。
幅広のワイドパンツにコットンのシャツ、ショール、
全く趣味でないという以上に男物とも女物ともつかない中性的なデザインで
頭が痛くなったが、スカートよりはマシと言える。

GPSタグなど付けられていては不快なので念入りに調べた後、
着替えた。

その間、Lは熱心にノートに見入っていた。


「確かに、ルールが書いてありますね……なるほど、死の前の行動を操れる……」


リュークはどこだろうと思ったが、遊びに行っているのか見当たらなかった。


「リューク?リューク!」

「ライトくん、どうしたんですか?」

「昨日言っただろう?死神が見えるって」

「はぁ……」


Lは興味なさげに気のない返事をしたが、その時、草原の向こうから
バサバサと羽ばたきながら飛んでくる黒い影が見えた。
もしかしたら、昨日ノートに憑いている振りをしてくれと言ったので
演出してくれたのかも知れない。


「ああ、やっと来た」

「?」


死神の影が大きくなるにつれLの目は見開かれ、ガラスを素通りした時に
椅子ごと後ろにひっくり返った。


「死神……そんな物の存在を認めろと……」

「でも、リアルだよ」

「……みたいですね」


さすがはLというか、すぐに椅子を立て直して指を咥え、
まじまじと死神を観察する。


「はじめまして」

『クックック』

「日本語しゃべれます?or speak English?」

『日本語で大丈夫。大体はな』

「……しゃべれるんですね……。では、少しお話を聞かせて貰えますか?」

『何だ?面倒なのは嫌だな』

「主に、ライトくんの供述の裏付けです」

『ああ。それならまあ、ライトは大体本当の事を言ってたと思うぜ。
 すぐバレるような嘘つくような奴じゃないし』

「大体?」

『ああー、あんま細かい事を突っ込まれるのは面倒くさいって事』

「了解しました」


少々わざとらしくて危ないが、一応所有権の事も、ノートではなく所有者に憑く事も、
伏せてくれそうだ。
こいつは自分の意志で嘘を吐いたりはしないタチのようだからまず大丈夫だろう。

Lは、今日はリュークに係り切り、か。


「なら、あなたがライトくんの肩を持つ事はない、と?」

『ああ。オレは誰の味方でもない』

「なるほど。確かに彼の味方をしていたら、今頃私は死んでますね」


話し続ける二人を残し、僕はそっとリビングを去る。
廊下の突き当たりにはドアがあった。
荷物を受け取る時は、このドアから出ていた筈……。

期待していなかったが、ノブを下げると鍵が掛かっておらず、無音で開く。
僕は……数日ぶりに、外の空気を吸った。



草原方面に行くと、あまりにもリビングから見えやすいので
裏手の林を真っ直ぐに進む。

別に逃げようとか何か目的がある訳ではなかったが、とにかくLから離れたくて
どんどん歩いて行った。
ぱりぱりと音を立てる落ち葉と、下生えの草が足に優しい。

しばらく進むと、気付けば辺りは薄暗くなっていた。
とは言え、日が翳った訳では無い。
木が増えて……森になって来たのだ。

下草はいつの間にか苔に取って代わり、平坦だった道が
岩や木の根に遮られた、きつめのハイキングコースになっている。
さすが、誰も人は来ないと言っていただけの事はあり、獣道しかなかった。
キャンバス地のスリッパのような履き物では、少し心許なくなって来ている。

小学生の頃、キャンプで泊まった森と、同じ匂いがした。
日本でなくとも、こういった広葉樹の森は似たような匂いがするのだろうか。

引率の大人もいて、みんなで歩いた森は小冒険のようで楽しかった。
あの頃は想像もつかなかった。
まさか、自分がどことも知れぬ外国の見知らぬ森を一人で彷徨う事になるとは。



何十分、いや何時間経っただろう。

羊歯が増え、突然現れた蜘蛛の巣にギョッとする。
ぱきぱきと枝を踏みながら、その内広くて見通しの良い場所に出るのではないかと
進み続けたが、森はどんどん深くなるばかりだった。

いや。
やけに、明るい所が……?


「うわっ!」


足を踏み外し、ずるずると崖を滑り落ちる。
手に当たった木の枝を思い切り掴んでやっと止まった。


「ここは……」






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