あなた、少し亂暴ぢやなかつたんですか? 4 夕食時のLは、不気味だった。 料理本を見ながらハンバーグを作る僕の後ろから、腰を抱く。 向かい合って食事を摂っていても、にやにやと意味ありげにこちらを見る。 今夜セックスするという約束を、忘れるなと言いたいのだろう。 忘れていないし不快なので無視していると、やがて向いから足を伸ばして 僕の椅子の座面、股間の辺りに置いた。 「やめろ、食事中だ」 「……」 足指を動かして、服の上から僕の性器を触る。 無視していると、今度はスカートの中に足を入れてきた。 「怒るぞ」 「待ちきれません、月さん」 また月さん、か。 ならば。 「ムードという物があるでしょう?」 月の声で微笑をすると、Lは急に慌てたように足を引っ込めた。 ……まったく。 「月さん、飲みますか?」 食後、本棚を見ているとLがワインボトルとグラスをぶら下げて近付いて来た。 「いい」 「素面で、出来るかどうか分からないので付き合ってくれませんか?」 「……」 出来なければ出来ないで良いだろう!と怒鳴りたいが、 そういう訳にも行かない。 それを分かっていてこんな事を言ってくるのが面憎い。 「分かったよ」 グラスを受け取ると、半分ほど注いでくれる。 一昨日聞いた通り、見つめた後匂いを嗅いで、揺らしてもう一度匂いを嗅いで、 としていると、Lが笑っていた。 「月さん、素直なんですね」 「……かついだのか」 「いいえ!本当の事を言いました。 でも、早速その通りにしてくれるとは思わなかったので」 軽く睨みながら、一口啜る。 口の中で転がしてからごくりと飲み、 「芳醇な香りですね」 と言うと、自分でも可笑しくなって笑ってしまった。 「やはりあなたには、笑顔が似合います。君の、」 「瞳に乾杯」 Lの言いそうな台詞を先に取ってやると、鼻白んだ顔をするのが また可笑しい。 笑っていると、頭がくらくらして来た。 「ああ……僕は、本当に、酒に弱いな」 「そうですね……可愛いですよ」 そう言って僕の肩を持ち、本棚前のソファに座らせる。 「もっと飲んで、もっと可愛らしくなって下さい」 「嫌だよ……」 言いながら、手は別の生き物のようにグラスを呷る。 酔わなければやっていられない。こんな茶番。 やけに体を近づけてきたLが、 「そうですね、飲み過ぎると、あなたは寝てしまいますからね……」 耳に口をつけて囁きながら、ゆっくりと僕を押し倒した。 「え……ここで?」 「寝室まで我慢できません」 「がっついてるね」 「がっついてます」 「……男相手に?」 「今は関係ありません」 完全に、堕ちたな。 もう、女じゃなければ抱けないなんて言わせない。 ……実際、手術をされなくてもLが望めば抱かれなくてはいけない訳だから 女と変わらないと言えば変わらないのだが。 「……悪い。今日は酔った」 「それは、したくないという意味ですか?」 「今はね」 「殺生ですね」 「おまえが飲ませるからだろ」 背を向けたが、Lは僕の言葉を無視してワンピースのファスナーを下ろし、 後ろから手を前に回してきて、僕の胸の辺りを撫でた。 乳首を見つけて、指先で押してみたり軽く摘んだりして遊ぶ。 「……何」 「させて下さい」 「……」 やはり、ここはLの王国で僕は奴隷だ。 拒めば手術をするとか、手足の自由を奪って犯すとかいう話になるんだろうな。 僕に拒否権などあろう筈が無い。 「良いよ」 「そう言えば昨夜はあなたは出してませんでしたね。 それも含めて頑張ってみましょう」 「それはもう、良いから」 『おまえの体が忘れられない』と言ったのは。 おまえに僕を抱かせる為の方便だったから。 おまえはただ、僕の体に溺れれば良い。 ホモにでもゲイにでもなって、女を欲しくなくなれば良い。
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