人形の家「畏まりました――あなたのお氣に召すやうに」3 「一体何が狙いですか」 「何がって?」 「やはり、私に抱かれたいんですか?」 それを口にするのは屈辱だが、背に腹は替えられない。 「ああ。僕もゲイじゃないけど、男と寝られるのは実証済みだし」 「それってゲイって言うんじゃないですか?」 「そうでもない。おまえ以外の男と寝たいとは全く思わない」 Lは作り笑いでベッドによじ登り、枕に腰を下ろした。 「何か、今、凄い殺し文句を言われたような気がしますが」 「本当だ。おまえに抱かれている時、何度もイきそうになった。 イったらバレるから耐えたけど」 「……」 「おまえの体が、忘れられないんだ……」 Lは指を咥え、また何か考え込んでいた。 「……男にそんな事を言われても」 「ならば」 一歩近づき、パジャマの一番上のボタンを外す。 Lがごくりと唾を飲んだのが分かった。 「……抱いて下さい、リューザキ……」 そのまま歩を進めて僕もベッドの上に乗ったが、Lは拒まなかった。 「……ずるいですね、ライトくん」 「何と言われても構いません」 そう言って微笑しながらボタンをもう一つ外す。 「ライトくん……」 「……」 「ちょっ……」 「……」 「……月、さん」 「はい」 「!」 Lは箍が外れたかのように素早い動きで僕の腕を掴み、 ベッドに引き倒して覆い被さってきた。 重い。 顔が近い。 「負けました」 「ふふっ」 簡単過ぎるな。 勝利感に、思わず笑ったが意図せず我ながら艶っぽい声だった。 Lも苦笑していたが、ふと真顔に戻る。 「でも、男のあなたとセックスする事は想定していませんでしたから ゴムは用意していません」 「はい?」 「どういう事か分かりますか?」 「いえ……」 「生で入れる事になる、という事です」 うわ……。 もう少し、婉曲な表現はなかったのか。 「そして中で出します。それでも良いんですか?」 「えっと……」 思わず素に戻ってしまい、Lも少し顔を仰け反らせた。 「生で入れたり、中で出したらどうなるんだ?」 「そうですね……私が病気を持っていたら恐らく伝染します。 あと、浣腸と同じ事になりますから、お腹が下るかも知れません」 「……」 まあ……病気はさすがに持っていないだろうし、 腹が下るのは……その位は、仕方ない。 性別を変えられる事を思えば。 「了解しました」 月(つき)らしい物言いをして頷くと、Lはニヤリと笑った。 「分かりました。努力してみましょう。 私が萎えないよう、せいぜい演技を頑張って下さい」 そう言って唇を押しつけてくる。 久しぶりの感触だ……。 この、息が苦しくなる程に奥まで入ってくる舌。 唇の裏を、歯茎を、余すところなく削り取ろうとする肉。 手は、僕のパジャマのシャツのボタンを外していく。 「……そう言えば、あなたと『まとも』なセックスをするのは初めてですね?」 漸く唇を離したLは、笑い混じりに囁いた。 「はい。優しくして下さい……」 「どうしましょう」 Lは前をはだけた僕を見下ろして首を傾げた。
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