人形の家「畏まりました――あなたのお氣に召すやうに」1 眩しい朝日に、目が覚めた。 眼底が焼かれるように痛んだが、強く目を瞑るとマシになる。 取り敢えずバスルームに行こうとクローゼットを開けると、女物の服が……。 それもイングリット・バーグマンが着ていそうな時代錯誤な服が並んでいて目眩がした。 その中でもマシな、シャツブラウスと動きやすそうなプリーツスカートを取り出す。 これは、何としても改善要求したい所だ。 シャワーを浴びた後、女物を身に着けて明るいリビングに行くと、既に起きていた Lは、眩しそうに目を細めた。 「おはよう」 「おはようございます……き、綺麗ですね、つ……ライトくん」 「……」 思いがけないほど動揺している。 そうか……こいつは、そこまで月(つき)に弱いのか……。 「正直、男物の服も用意して欲しいんだけど」 「駄目です」 「そう言うと思った」 「なら無駄な事を言わなくても良いのに」 「無駄で悪かったな」 「ええ。せめてキラの犯罪方法について何かしゃべったらどうです?」 ……なるほど。 Lが、意味も無く嫌がらせをしたりはしない、か。 「……分かった。殺人手段は……信じて貰えなくても仕方ないが、 死神の貰ったノートに殺したい相手の名前を書く事なんだ」 「……それで?」 「相手の顔を思い浮かべながら、フルネームで書かないと殺せない」 「なるほど。同姓同名の人物が死ぬ事はないわけですね?」 「そう」 さすが、受け入れも回転も速いな。 Lはそれでも疑わしそうに親指の爪を囓っていたが、今更僕が嘘を吐くメリットも ない事も分かっているだろう。 「そのノート、どこにありますか?」 「……実家の、僕の部屋の机の一番上の引き出し」 「確認が取れ次第、下着だけは男性物を揃えましょう」 「下着だけ?!」 「他は、ノートを調べてからのお楽しみです」 右後ろで、死神が「クックッ」と笑いを漏らしている。 仕方が無い、今回は負けだ。 「待ってくれ。引き出しは二重底になっていて、普通に開けただけじゃ取り出せない」 「はい」 「底に直径3ミリ程の穴があるから、そこからボールペンの芯を入れて絶縁しないと 中の物は燃えてしまう仕掛けになっている」 「……電熱線と、液体燃料でも使ったんでしょうか。 さすが、呆れるほど用心深いですね」 デスノートを、見られてしまうのは都合が悪いが。 下着も貰えないのは堪らない。 その日の午後にヘリが来て、多少の食材とボクサーブリーフがいくつか届いた。
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