同行二人 2 「……なら、その第三者は、自らは殺人手段を使えない、 そうだな……使い魔のような者だと仮定しようか」 「今のキラは、人間だと思うのですか?」 「ああ。ほぼ間違いないと思うけど、その理由は近日中に話す」 「夜神くん……さすがです」 そう言う竜崎の目は、情欲に濡れていた。 記憶を失う前の僕、キラと、現在の僕の対決、というシチュエーションに 興奮しているのだろう。 「綺麗です……」 ゆっくりと骨張った指が伸びて、僕の頬に触れる。 「月が?」 「月くんが、です」 自ら体を横たえると、同じスピードで覆い被さってきた。 「その姿も、頭脳も、清廉潔白な精神も、」 降ってきた優しいキス、僕から竜崎の髪を掴んで深く舌を差し入れると、 キラのキスが、返ってきた。 「夜神くん……さっきは本気で、考えてくれましたね」 お互い熱を排出し終わって、僕はぐったりしていたが、 竜崎は枕にしゃがみ込んで何事もなかったかのように事件の話を続けた。 こういう所は本当に相変わらずだ。 「ああ、僕がキラだという仮定か。勿論本気だ」 「ありがとうございます。正直、あなたがそこまでしてくれるとは思いませんでした」 「……」 それは、僕もだ。 僕がキラだという仮定に基づいた推理は、今まで避けてきた。 キラじゃないんだから無駄だ、という建前だったが、 本当は少し怖かったからだ。 「あなたは聡明な人ですから、もう、自分が100%キラではない、なんて 思ってませんよね?」 「……ああ」 「自分の首を絞める結果になるかも知れない。 なのにどうして、協力してくれたのですか?」 「それだけおまえに対して誠実でありたいと思うからだよ」 「……」 今度は竜崎が黙り込む番だった。 僕は……自分を信じているが、それと同じくらい「L」を信じる。 Lの、僕に対する疑いを晴らしたい。 だがもし本当に僕が記憶を失ったキラだとしたら……それはLに、暴いて欲しい。 「照れた?」 「……戯れに手を出したら相手が処女で、全力で縋り付かれた、 みたいな気持ちです」 「ああ、鬱陶しいか」 「いいえ。男冥利に尽きます」 「……」 「あの、一度使ってみたかった言葉なんですが、用法間違ってます?」 「いや、」 合ってる、けど。 男に男冥利とか言われた僕の気持ちも考えろ! 「という事で、明日はデートしましょうか」 「え?」 「あなたが『携帯』を隠す場所に、案内して下さい」 「いいのか?僕を外に連れ出して」 「ただし絞りに絞って一カ所だけでお願いします。 触れなくても半径何メートル以内に近づいたら記憶が戻る、という 可能性もありますから」 「おまえが気付かない間に記憶を取り戻して、わざと殺人手段の在処を スルーするかも知れないからか」 「はい。一カ所なら、いざという時にはその場所を徹底的に探索出来ますから」 「現在のキラが『携帯』を持っている可能性は?」 「そちら方が高いですが、第二のキラの『携帯』も あなたが隠したのかも知れませんし」 久しぶり、だ。 望めば屋上で風に当たらせてくれるが、地上に出るのは、 本当に久しぶりだ。 もしかしたら。 竜崎は、「キラ」として捜査協力したご褒美に 僕を外に連れだしてくれるのかも知れない。 そこに少しでも、「好意」が入っていると嬉しいが、 コイツの事だから、僕が演技をしている可能性も残しているだろう。 これも、僕を信じている振りをして油断させようとしているのかも知れない。 ならば、明日は、ノートを隠す可能性のある場所ではなく、 竜崎と行ってみたい場所を挙げてやろうか。 などと思った。 --続-- ※日和ってます。
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