同行二人 1
同行二人 1








「キラ捜査に協力するって、今でもしてるじゃないか。
 具体的に何をすればいいんだ?」

「今までお願いしたくて、夜神さんの手前出来なかったんですが」


竜崎は、珍しく考え考え話しているようだった。
僕にさせたい事を、探しているのではなく、ありすぎて
迷っているのだろう。


「まず、あなたがキラだという前提を受け入れて下さい」

「……よくそんな酷い事言えるね」

「冷めました?」

「いや。最低すぎるけど、おまえの事だから今更驚かないよ。
 認めはしないが、自分をキラだと仮定する事は出来る」

「ありがとうございます。
 ではキラが、私の疑いを晴らすために遠隔殺人の手段も記憶も手放し、
 後に再び、確実に手に入れたいとしたら、どうすると思いますか?」


ああ、これを聞きたかったのか。
竜崎なりの考えもあるだろうが、僕が答えを出さなければ意味がないのだろう。


「その、遠隔殺人の手段だけでも固定してくれないかな」

「そうですね……神様、いや死神直通の『シンプル携帯』のような物と考えて下さい。
 因みに、第二のキラが持っていたのは『カメラ付き携帯』です」


キラは、誰々を殺してくれと、死神に言わなければならない。
第二のキラは、カメラで映してコイツを殺してくれ、でいいわけだ。

目を閉じて、考える。

まず、証拠となる「携帯」を隠すのは絶対だ。
元々超常的な物なのだから、実体がない可能性も有るが
捜査されて焦った所を見ると、消せないか、出来るにしても簡単ではないのだろう。

そして、その隠した「携帯」を再び手にした時、記憶が蘇る……
そう考えてみると。

大きさにもよるが、僕なら、家なんかには隠さない。
近いが、自分の行動範囲外……子どもの頃よく遊んだ場所あたりか。

それとも、信頼できる誰かに預ける……?
いや、ないな。
性格上はともかく、手際的にそれが出来そうな人、
警察が来ても臆せず隠し通せる友人に心当たりはない。


「……僕がキラなら、その手段を持ち歩いていた事になるんだよな」

「その可能性が高いです」

「という事は大きさは、咄嗟に飲み込んで隠蔽出来ない大きさから、
 どんなに大きくてもノートPCくらいまで、か」

「そうですね」

「後で、僕がそのくらいの物を隠すならどこに隠すか、考えてみるよ」

「ご協力感謝します」


これで、自分の疑いが晴れれば良いと思う。
だが……もし、僕が本当に、キラだったら……。

電気椅子が頭に浮かんで、血の気が引く。

以前は、絶対に自分はキラでないと思っていた。
だが竜崎と話している内に、確信が持てなくなっていた。

自分が信じている事と、信じたい事の、
区別が難しくなってきている。


「その『携帯』に出現タイマーみたいなものが付いていたら
 こんな推測無駄になるな」

「ええ。一定時間経過後、あなたが一人でいる時に現れる、
 そんなプログラムが出来る可能性も考えてこうしましたが、」


じゃら、と鎖を鳴らして手錠を上げる。


「その辺りは後ほど考えるとして、今は普通の物質として下さい」


現実的な時限装置……殺人手段を厳重に梱包して
海外の、出鱈目な住所に送る。
何週間かして宛先不明で戻って……

いやだめだ。
 
郵便事故がないとも限らないし、第一検閲を受けずに手に出来る可能性は低い。


「やっぱり、時限装置じゃなくて、状況が条件に合うようになる、という事だな」

「私もそう思いました」

「だとしたら、この状況は危険だ」

「やっぱり、ですか」


……一番蓋然性の高い条件は。
「現在のキラ」、あるいは「現在のキラが持つ殺人手段」と僕が出会うこと。
つまり、現在のキラ自体が隠し場所という訳だ。

長期間監禁されるくらいに疑われた僕の、容疑を解いたからと言って
竜崎がすんなり解放する筈がない。
必ず僕を手元に置く筈だ。
捜査協力者とでも理由を付けて。

僕がキラなら、それが予測できた。

こんな、手錠まで想定していたかどうかは分からないが。


「おまえが僕と行動を共にする事は予想できただろうし、
 そうすれば、捜査が進めば必然的に僕も現在のキラと会うことになる」

「つまり、あなたと私なら必ずキラに辿り着くと、思ったわけですね?」

「……って、だからおまえはやる気がないとか何とか言って
 捜査に積極的じゃなかったのか?」

「まさか。まあ、漠然と現在のキラを追い詰めると危なそうな感じはしていましたが」



……僕が調べている、犯罪者以外の、心臓麻痺の死者。
これが、本当にキラに繋がると言うのだろうか。

僕は、僕なら、こういった調べ方をすると想像がついただろうし
それを竜崎に告げる事も想定範囲内だろう。

自分で作った問題を自分で解くなら、解に到る道筋も予想出来たはずだ。

……いや待て。


「竜崎、おかしい」

「私がですか?」

「ボケてる場合じゃない。
 その場合、僕が、今のキラに殺人手段を渡した事になるよな?」

「はい」

「これは、信じて貰うしかないんだけど……僕にその記憶は全くない」

「うーーん、それが本当だとしたら、困りましたね」


殺人手段やキラ、それに関する記憶が全てなくなるのならば、
その関係で出会った人の記憶も全てなくなる筈だ。

だが、僕はミサの事も、死んだFBI捜査官の事も覚えている。

とすると、現キラの記憶もないとおかしい。


「やっぱり、僕はキラじゃないんじゃないかな」

「そう信じたい気持ちは分かりますが」

「じゃなきゃ、僕に知られないように人選した、第三者が存在する事になる」


誰かが僕から殺人手段を盗んだ、というのも非現実的だ。
僕はそんなに間抜けじゃない。
偶然手に入ったと言うのなら、キラの意思を受け継いだような
裁きをするのもおかしな話だろう。


「そうなんですよね。
 そんな第三者を想定するよりは、最初から現在のキラが主犯で、
 あなたに殺人手段を託していた、と考える方が自然です」

「なら、」

「でもあなたなら、そのキラが例え死神のような人外であっても、欺きます。
 利用される振りをして、必ず自分の手に殺人手段が戻ってくるよう
 何らかの策を講じていると思います」

「……」


竜崎と僕は、しばし睨み合う。
やはりどうしても僕が主犯でなければ、納得しないらしい……。






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