Dragon fall 4 プロイは、その大きな目を限界まで見開いてサマワットを凝視する。 涙が、表面張力を破って今にも流れ落ちそうだった。 「……ふざけるな」 低く、震える声。 「アイスは、どうなる? 望まない舞台に引っ張り出されて、何年も何年も倒れるまで踊って。 壊れたら用無し?それから? 薬の中毒から抜け出す為のサポートは? 今後の人生、プロイとそっくりの顔を曝してピアノで身を立てる事を許すのか?そんな訳ないよな?」 私はプロイが今にも叫び出すのではないかと思ったが。 澱みない口調でまくしたてたのは、意外にもずっと黙って他人事のように聞いていた夜神だった。 「それは、未来永劫知られたくないだろうな。あなたの罪は償える物じゃない」 「……それだけではない。この国の、威信の為にも。 国王の為にも、これは誰にも知られてはならない事だ」 「勝手な事を言うな!」 夜神は、掴みかかりそうになるのを抑えるように、左手で自らの右手の拳を押さえていた。 「全部公表したらどうだ。 王族が貧民街で育った事も、一人の少年が人格も身体も奪われ続けていた事も」 「そんな事をしても、誰も幸せにならない。 アイスに関しては、本来一生掛かっても出来ない生活をし、得られる筈のない教養を身に付ける事が出来たのだから相殺だと思うが」 「与えるだけ与えられて、それは偽物だった、という方が残酷だと思うが?」 「……」 サマワットも、ワイズも。 夜神から目を逸らしてただ黙り込んでいた。 プーミパットに促され、私は夜神とプロイを連れて部屋を出る。 「あなたの本当の役割は、Lを殺す事だったんですね?レック」 銃をしまったプーミパットは、人差し指で頬を掻いた。 「その通りです。Lを見つけて確証を掴み次第、Lとあなたがた、どちらも始末しろと、署員全員に通達がありました」 「確証なんか掴ませませんよ」 「私はあなたがほぼLだと思ってますけどね」 彼にネクタイを結んで貰った時の事を思い出す。 『……このまま締めたら、私英雄ですね』 たった数時間前なのに、随分昔に思えた。 「では何故、私を殺さなかったのですか? 機会はいくらでもありましたよね?」 「あなたに、惹かれたからです」 そこでエレベータの箱が来て全員で乗り込む。 夜神は魚のような目をして壁に凭れ、それにこれまた死人の目をしたプロイが凭れた。 「実は、私がLマニアだというのは本当なんです。 あなたを見ていて、自分が正義の味方に憧れて警官になった事を思い出しました」 「それは結構ですが、署長……というかワイズやサマワットの命令を無視して、大丈夫でした?」 「警官は続けられないでしょうね」 「というか……」 かなりの高確率で、消されるだろう。 私は彼等を待たせて、ホテルのフロントに寄った。 マイクロSDを手に入れ、自分の携帯端末から先程の会話の音声データをコピーする。 「お守りです。有効に活用して下さい」 プーミパットに渡すと、彼は両手を掲げて恭しく受け取った。 事件は、終わった。
|