CAN’T HELP FALLING IN LOVE 9 私は、答える事が出来なかった。 月様は口を付けず、缶の角度を変えて試すがめつ観察する。 私は身が竦む思いだった。 なのに彼は。 最後に私を一瞥した後……躊躇いなく缶を口に近づけた。 「月様!」 「うん?」 唇を、缶の縁につける。 やはり……気付いていない、のか? 「やめて……下さい!」 私は、よるける足で一歩近づき、缶に手を伸ばす。 「飲まないで、下さい」 「うん……」 「それはやはり私が」 だが神は。 「僕に飲ませないのなら、おまえも飲むな」 そう言って、傍らの水飲み場の排水溝の上で、缶をひっくり返した。 たー……、と、真っ直ぐにコーヒーは落ちていく。 「おまえなら、止めてくれると信じていたよ」 「月様」 まさか。 ……知っていて。 飲もうとしたのか。 面目なさに、畏れ多さに、全身が竦んで謝罪する事すら出来ない。 私がしようとした事は……殺人未遂という以上に、神に対する冒涜だ。 許して欲しいなどと、口にする事なんか出来ない。 願う事すら許されなくて当たり前だ。 私がただ震えながら膝を突くと、しかし彼は私の肩を優しく摩ってくれた。 「僕は、Lの元に戻る」 「……」 「けれどもいつもお前の幸せを祈っている」 私は遂に、地面に伏してしまった。 このまま消え入りたい。 だが、何も言わなければ絶対に後悔する事になる……。 私は勇気を振り絞り、声を絞り出した。 「月様……また、お会い出来るでしょうか……」 「……」 返事がないのに、恐る恐る顔を上げると。 彼は、この世の者とは思えない程美しく、微笑んでいた。 ……遠く離れている時も。 病める時も、健やかなる時も。 富める時も、貧しい時も。 私はあなたを愛し続けずに居られないだろう。 死が二人を別つまで。
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