CAN’T HELP FALLING IN LOVE 10 寝室のPCが自動的に起動した音に、目が覚めた。 慌てて起き上がり、時計を見るともう昼前だ。 霧が掛かったような頭を振り、ずるずるとベッドから降りてPCの前に行くと これまた自動的にメーラーが起動する。 「 おはようございます、L。 近頃になくメール返信が遅いので、こちらのPCをリモートコントロールしました。 異常がなければ空メールで良いので返信をお願いします。 月さんは大丈夫でしょうか? 抗生物質やワセリンが必要なら届けさせますので言って下さい。 W. 」 ……ワタリは一応、私のプライバシーを尊重するとは言っているが、 偶にはこのフラットの監視カメラを遠隔操作して様子を見たりするかも知れない。 だが今回は、文面からして監視はされていない。と思いたい……。 「 異常なし。抗生物質はストックが少ないので頼む。 」 それだけ返信すると、すぐにリプライがある。 「 了解です。 ところで良い小豆が手に入りました。 月さんに、お赤飯にするなら餅米も手配すると伝えて下さい。 W. 」 ……そう言えば。 ワタリは昔から、真面目なのか巫山戯ているのか分からない所があった。 私は返信せずに、PCを閉じた。 振り返ると、夜神は少し口を開いて寝ていた。 こんな男に、上手く魅上を利用されてまんまと嵌められた……と思うと 腑が煮えくり返る。 裸のまま、無警戒に手足を投げ出している。 はるか昔にどこかで見た覚えのあるような光景でもあった。 コーヒーを入れ、その寝姿を眺めながら飲んでいると、 やがて夜神は小さく呻きながら目を開けた。 「……おはよう」 「おはようございます」 「僕にもコーヒーをくれ」 ……こんな朝。 非常に付き合いの長い人物と、初めて体を交えた翌朝、なのに 恐ろしくいつも通りだ。 私はまだしも、夜神はあんなに苦しんでいた癖に。 だが、肘を突いて顔を顰めながら上半身を起こした姿に、遠い記憶が蘇り 思わず頬が緩む。 そうか……そういう共通点か。 私の顔を見て、夜神が不興げに眉を顰めた。 「いえ……夜神くんは、とても引き締まった身体をしていますね」 「ああ、どうも」 「それに細い。色が白い」 「だから何」 焦らすつもりはないが、コーヒーを渡しながら言うと、 夜神は苛々した声を出した。 「何という事はないのですが、サルキを思い出しました」 「何だったっけ。ヒンドゥー語だったか?」 我ながら脈絡もなく唐突な物言いをしたが、夜神は困惑をおくびにも出さない。 本物の、負けず嫌いだ。 「それもありますが、私が言っているのは犬種のサルキです」 「犬を、思い出した?僕を見て?」 「はい。昔飼ってたんですよ」 犬と比べられて気を悪くするかと思ったが、夜神は単純に驚いた顔をした。 「おまえがペットを飼った事があるなんて、意外だな」 「そうですか?」 「ああ。人間とも上手く付き合えないのに、動物を可愛がる所なんて 想像出来ない」 「酷い言い様ですね」 とは言え、確かに客観的に見ればそうだろう。 実際私は、ペットを飼った事がない。 あの高貴な、エジプト王家の犬と言われた彼以外。 「私を信用しきって、細い体と細い四肢を投げ出し 寝転がっている様を、さっき久しぶりに思い出しました」 「悪かったな、だらしなくて」 でも、おまえの所為だぞ。 という言葉を含ませて、夜神は初めて笑いの滲んだ視線で私を睨め付けた。 「で、名前は?」 「名前?」 「その、おまえの飼っていた犬の名前だよ」 「さぁ、何と言ったか……ただ、サルキと呼んでいたような気もしますが」 「執着がないんだな。その犬は手放したのか?それとも死んだ?」 ……彼の最期を思い出す。 敢えて平然とした顔を作る。 「殺しました」 「……」 瞬間的に空気が凍ったが、夜神は眉一つ動かさなかった。 不自然な程表情を変えない所を見ると、彼も私の前で驚いた顔を見せるのが嫌で 努めて平然とした顔を保っているのだろう。 「そう……どうして」 「身内を殺す犯人の心情を知りたくて」 「……」 今度はさすがの夜神も、少し頭を仰け反らせた。 「……普通じゃないな」 「そんなに大型犬ではないのですが、苦労しましたよ。 頸動脈を一応正確に切ったつもりなのですが、中々倒れなくて」 「……」 夜神がひいている様子なのが面白くて、私は調子に乗って喋り続ける。 「十秒ほど経ってやっと意識を失いました。折角なので解体もしてみました。 股関節は、節の間にナイフを入れると意外と簡単に外れたのですが、」 「……もう良い」 「肩胛骨に当たる部分は、思ったより難しくて」 「もう良いって言ってるだろ!」 ……大量の犯罪者を、無慈悲に裁いたくせに。 夜神は私に対する見栄すら忘れて、不快感を表す。 私は思わず、笑いを噛み殺した。 「そこまで悪趣味な奴だとは思わなかった」 「伴侶として、不適格ですか?」 「……いや」 まだ私との「婚姻関係」に拘るか。 私は遂に、吹き出してしまった。 夜神は憮然として、コーヒーカップをサイドテーブルに置く。 「僕は、解体しないだろうな?」 「……さあ。どうでしょう?」 本当に美しく、本当に愛しい犬だった。 病に苦しむ彼を楽にしてやり、静かに冷たくなって行く体を抱き続けた日 私は初めて、心が欠ける、という言葉の意味を知った。 二度とあんな思いはしたくないと思ったが。 私より余命の長いペットなら 長生きをする為に自己管理出来る生き物なら また飼っても良いかもしれない。 それが、稀代の大殺人者であってもそれも一興。 抜群の性処理能力が付属していれば尚良し。 「今日は一緒に、餅米でも……買いに行きましょうか。夜神くん」 「?」 愛しき、かの犬の名は……「正義」。 --了-- ※62000打踏んで下さいました、いくさんに捧げます。 気になるリクエストは、 LOVE ME TENDERの後日談で、テーマは前回同様、三角関係でお願いいたします笑 (いつもいつもすみません汗汗) で、時間軸ですが、前話から半年後ぐらい。 もっとあとでも構いませんが、Lは「手を出す以上、司法に突き出さない」約束を守り、 月もおとなしく従っているため、表面上は平衡が保たれている状態。 ただし、Lとしては月に対し周囲(ワイミーズ?)からの風あたりが強いこともあって、 「月を厄介払いできるものならしたい(でも、ワタリの手前、できない)」な 心境でいるところへたまたま(誰かの陰謀とかでもいいですが) 月の所在を知った魅上氏が真相を確かめるべく現れ、三角関係復活、 というような感じの設定が希望ですvvv ちなみに、前回唸っておられた魅上のキャラですが 「ノートを奪われたのは自分の失策と思い込み、そのせいで月は 死んだかもしれないとまで思いつめていた」まじめ&誠実男で お願いいたします。 さらに、一途で融通の利かないところが総一朗似かも、という感じの 魅上氏(…ってどんな感じだ汗)なら尚、嬉しいですvvv また月ですが、これはもう、前回踏襲で! つかみどころのない性格(別名・アホ月)と、次の行動が読めないキャラが 前回超ツボだったので、今から楽しみにしておりますvvv …でもって、最後にオチなんですが、これはぜひ、元サヤでvvv でした! いやもう、話出来てるやん〜!と思って最初は気楽に構えていたのですが 作文する時間がまとめて取れなかった事もあり遅くなってごめんなさい。 でも書いていて非常に楽しかったです♪ 今回も魅上は当て馬ですが、前回書かせて頂いた時に気に入ってしまったので なんかちょっとかっこよくしてしまった。 きっと総一郎さんは一途だと思うので、総一郎似という事にしておいて下さい。 月はアホなのか悪女風なのか、固まらないままに終わってしまいましたね。 どうでしょう、時系列分かりにくいでしょうか? 結局思わせぶりに魅上を振って、その後Lに、という流れです。 実は「9」で終わっていたのですが、追加で 何しろラストの魅上がカッコよすぎる(笑)…ぶん、 Lにも最後にもうひと踏ん張り、見せ場があっても良かったかな、と とコメント頂き、確かに!というか自分でも薄々引っかかっていたので 「10」を付け加えさせて頂きました。 「手を出したら終わり」だと解っているのに、結局、今回もまんまとハマったL… ヤッた後、忌々しい気持と、こうなったらもうしょうがないという気持と、 そうは言ってもようやく月を手に入れた満足感というか、 その辺りの心境が出ているようなシーン(…ってどんなシーンだ汗)が 入ると 萌えてまうやろーーー!(笑 こう、上手く盛り込む事が出来ず自分でも歯痒いです。 でもこのLはこんな心境です!(笑 ありがとうございました! タイトルは前回を踏襲してプレスリー・シリーズで行きました。 もし次回があるなら監獄ロックあたりか。 いくさん、今回も楽しい、そして萌えるリクをありがとうございました!
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