CAN’T HELP FALLING IN LOVE 8
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明かりが一つ、消えた……。

私は、襟を立ててビルの明かりを見上げた。

この、イギリス特有のいかにも「管理された自然」と言った趣の公園に、
私は一時間と十二分前から立っている。

伝統的なガス灯の形を模した、だが完全に電気の公園灯の
寒々しい青い光りに照らされて、まるで自分が蝋人形になったような気が
し始めていた。

彼は……現れるだろうか。

通り向こうのエントランスに目を移し、何度となく繰り返した思考に立ち戻る。

来ないで欲しい。
どうか来ないでくれ。

全力で祈った。
今までだって神は、私の希望を全て叶えてくれている。

いじめっ子に死んで欲しいと思えば死んだ。
母さんなんて要らない、と思えば、やはり死んだ。

だからどうか今。

私の目の前に現れないで下さい。

……会いに来ないで下さい。




『監禁じゃ無い』

『ならば、自らの意志で監視なしにここから出られますか?』

『出られる、と思う』


月様は、初めて見た少し自信なげな顔で答えた。
私は……抱きしめずに居られなかった。


『では明日の晩……出て来て下さいますか?』

『……』

『あなたが自由にここから出られる事が分かったら、
 監禁されていないと認め、諦めます』

『分かった。出てみるよ』


そんな事、出来る筈がないと思う。
「世界の切り札」と言われたLが、キラを、キラだと分かっていて
解放するなんて。

だがもし本当に、監禁されていないのならば。
月様の意志でLの側に居ると言うのなら。

……洗脳されているとしか思えない。

だとしても、その洗脳を解くべきなのかどうかは、迷う所だ。
もしかしたらその方が月様は幸せかも知れないからだ。

だから。

出来れば監禁されていて欲しい。
月様が自分の意志では出られない、本当は出たい牢獄の中に居て。

私が彼を華麗に助け出したい。

例えそれがエゴに過ぎないとしても。




その時不意に、じゃり、と音がした。


目の前に、白い影が立っていた。


「月様……」


私とした事が、思索に夢中になってエントランスの気配を伺うのを
忘れていたようだ。


「来たよ、魅上」

「……」

「……」


私達は無言で、長く見つめ合った。
やがて、月様が小さな溜め息を吐く。


「分かっただろう。僕は、監禁されていない。
 Lと生きていく」


今度は、私が大きく長々と息を吐いた。


「……あなたにとって、Lとは何なのですか?
 Lを、愛しているのですか?」

「愛しているとか、そういう感情は僕にはないよ。
 そんな物を持つ資格はない。
 キラになった時から、自分で分かっている」

「誤魔化さないで下さい」

「本当だ。ただ、一つ言える事は」


続く言葉を予想して、耳を塞ぎたくなったが。
そんな訳にも行かない。


「僕にとってLは唯一だって事だ」

「……!」

「というか、遠からずそうなると思う」

「……」


泣きたいような気持ちになった。
このまま。
抱きしめて、二人で消えてしまいたかった。


「……それでも……あなたを攫いたいと。
 あなたを伴って日本に帰りたい、と思ってしまいます」

「そうか」

「いけませんか?」

「思うのは自由だ」


強くも厳しくもない、どちらかというと優しげな言葉が、
今は心を刺すほど冷たく感じられる。


「もう、行くよ」

「月様」


私は……蓋を開けた、だがもう冷えている缶コーヒーを差し出した。
自分が飲むかも知れないと思っていた物だが。

彼は振り向いて、少し困ったように微笑んだ。


「くれるの?」

「はい」


素直に受け取って、今度は寂しげに笑う。


「……人を疑うのは、悲しい事だ」






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