CAN’T HELP FALLING IN LOVE 6
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翌晩、夜更かしして仕事を続ける私を残し、夜神は「おやすみ」だけを言って
寝室に下がった。

やはり今日は、「起きて待ってる」とは言わない、か。

日中、昨夜の「ちょっと外へ」発言について、お互い何も話さなかった。
だが、今日が共に過ごす最後の日になると、強く意識はしていた。
かと言って特に今までと何も変わらないのだが。


「……おやすみなさい、夜神くん」


ドアが閉まってから、届く筈もない言葉を呟く。
今からでも監視を付けたい気持ちに駆られたが何とか抑えた。
その焦燥が、一体どこから来ているのか、我ながら不思議に思う。

そして気付けば、私はニアに短いメールを送っていた。


「  メロでない方の“M”の居場所は?  」


まず返信はあるまいと思ったが、意外にも即帰ってきた。


「  そちらのビルの前の公園です   」


……プレッシャーを掛けたつもりはないのだが、敵は勝手にギブアップしたようだ。
あっさりと全てを認め、魅上の現在地も送ってくる。
手の内は曝す、止めるなら止めろ、という所だろう。

私はそれに対する返信はせず、窓際に寄った。


……確かに前の公園の、入り口付近に影が見えた。
もうこんな近くに居たのか。

遠目で顔は見えないにも関わらず、中継映像でも見ているかのように
このビルの明かりを見上げながら佇む長身の東洋人が脳裏に思い浮かぶ。

真夜中の公園で、彼は立ち続ける。
青白い水銀灯が、その彫像のような横顔を浮かび上がらせる。


その時、窓の真下のこのビルのエントランスから、白い影が……現れた。

妄想から現実に戻り、その影を目で追うと、
彼は待っていた男に、真っ直ぐ向かって行く……。


そこまで確認して、私は静かに窓から離れた。

夜神は、魅上を選んだ。

だが、私は止めない。
止める理由がない。

ワタリに何か言われても、夜神が勝手に出て行ったのだと、真実を伝えるまでだ。


私は背もたれに凭れ、今日来た依頼に目を通した。
目が滑るので、プリントアウトしてみる。

他に音の無い室内で、ぺらり、ぺらりと紙を捲る音が鮮やかに響くのが、
何かのサンプル音のようだとぼんやりと思った。

事件は、昼間概要を見た時は非常に面白そうだと思ったのだが、
今は何故か頭に入ってこない。

仕方なく、椅子の上で身体を丸めた。
夜神がいないのなら、私にも監視がついていない事になる。
寝室に行く意味は無い。


……しかし。
少しうとうとした所で背中が痛くなり、目が覚める。
ある程度熟睡するつもりだったのに、時計を見ると一時間半しか経っていない。

やはりベッドで何日も寝たせいで、身体が調子を崩しているとみえる。
仕方なく私は、寝室へと向かった。





「や、夜神くん?」


だがそこには……
いつか与えたパジャマを着た、夜神がベッドの中に居た。


「ああ……L。遅かったな。ちょっと寝てしまったよ」

「いや……というか」


ここを出ると、魅上の元に行くと言っていなかったか?


「今夜外に出ると、言ってませんでした?昨日」

「ああ、出たよ」

「出て……戻って来た?」

「そうだけど?」


ええっと……それは。
本当に、「ちょっと出た」だけ……?


「……誰かに、会いました?」

「え……」


夜神は一瞬赤くなり、監視カメラにちらっと目を遣って、青ざめた。
存在を忘れていたのか、夜神ともあろうものが。
確かに自分の部屋の監視カメラなど、形だけで今まで使った事がなかったが。


「いえ。別に良いんですけどね」


夜神は、私から逃げなかった。

……「ちょっと」浮気をしただけだった。

「婚前交渉はしない主義」と言っていた夜神が。
私との行為が、「生涯最初で最後の性交渉」だと言っていた夜神が。


私は何故か、夜神が戻って来なかった場合よりも落胆した。

長くとも、たった二時間。
とは言え、だからこそそれは濃厚な逢瀬だっただろう。


「楽しかったですか?」

「……」

「外出」

「……ああ。まあ」


魅上は、夜神の身体を堪能出来て満足した事だろう……。
それともまだ拓かれていない身体に、困惑したかも知れないな。

いずれにせよ、珍しく着込んだ夜着の下には、その痕跡が残っているに違いない。

そう思うと、何故か凶暴な気持ちが湧き上がって来た。


「夜神くん」


呼びながらスニーカーを脱ぎ、ベッドに膝を乗せる。
パジャマの襟に手を掛けると、夜神は驚いたように私の手首を掴んだ。


「いきなり何だ?」

「あなたを、抱きます」






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