CAN’T HELP FALLING IN LOVE 5 モニタの中の魅上は、夜神の布団を捲り、抱きしめたがそれ以上は何もせず 少し話をした後、静かに立ち去った。 意外に思う気持ちに、少しの残念さと、微細な安堵が何故か混ざっている。 『……では、機器は私に任せて下さるという事で』 「はい。あ、言うまでもないですが本体に記録が残せる機能は必須です」 『分かっています』 ニアが魅上の動きを探知しているのなら、もうこれ以上私を 引き留める必要はない筈だ。 ……ニアは今、彼の奸計……魅上を夜神にぶつける企みが 私にバレている事に、気付いている。 そして、気付いている事が、私に分かっている事も、分かっている。 そんな白々しい状況でこうして話し続けるのは、余程メンタルが強くとも 辛い所だろう。 出来るだけ早く通信を切りたがる筈だ。 『では、今から手配を始めますので』 ほら。 「分かりました。ではまた何かあったら連絡を」 『はい。それでは』 「あ、ニア」 『はい?』 「“M”によろしく」 『……!』 ニアは、画面越しでも分かる程青ざめた。 「メロ、ですよ」 「……はい」 私に揶揄われた事が分かったのか、拗ねたように目を伏せて すぐにカメラを切る。 私も、監視カメラのスイッチを切って寝室に向かった。 「……L?」 ドアを開けて薄暗い部屋に入ると、自信なげな声が聞こえた。 さっきもこんな風に、魅上に呼びかけたのか。 まあ、私以外の人間が入って来る事など、通常ではあり得ないのだから仕方あるまい。 「はい。まだ起きていたんですか」 「ああ……」 気のせいか、半年前久々に夜神に会った夜……魅上が隣の部屋で 転がっていたあの夜と同じ匂いが微かに漂っている気がする。 ……シトラス系の、男性用コロンの匂い。 私は無言でベッドに入り、夜神が魅上の訪問について 何か言って来るのを待ったが……彼は何も言わなかった。 ……何も、言わなかった。 仕方なく背を向けて横たわると、背中が温かくなる。 夜神が寄ってきたらしい。 「何ですか」 「……僕を、抱かないのか」 「抱きません。何度も言っていますが」 「今夜が……最後のチャンスかも知れないぞ?」 「……」 という事は……。 そういう、事か。 夜神。おまえは。 ……私を裏切るのか……。 「意味が分かりませんが、私には関係有りません」 我ながら冷たく響く声で答えると、夜神は背後で小さく溜め息を吐いた。 それから、温もりが離れていく。 どうやら先方も私に背を向けたらしい。 やがて、少し遠のいた声が聞こえてきた。 「頼みがある」 「何ですか?」 「……明日の晩、ちょっと外へ出たいんだけど」 「……ちょっと、ですか?」 「そう。監視なしで」 「……」 監禁された状態で、何を言い出すのかと思うが。 ……思えば確かに、デスノートを持っていない夜神に、脅威はない。 彼がこの外国で、逃亡したとしても何も出来ない。 それどころかメロに捕捉されて始末されるだけだ。 魅上に頼るしかないだろうが、それでも時間の問題だろう。 「いいですよ」 「……」 背後の気配が、ぴくりと震えた気がする。 自分で言って置いて、私があっさりと承諾するとは思っていなかったのだろう。 だが、夜神は何も言わなかった。 「下のエントランスを、内側から開くキーは『0511』です」 「……」 知っている、か。 魅上がここから脱出した以上。 あるいは柄にも無く、その日付が持つ意味の重みに耐えかねているのかも知れない。 また沈黙が続き、もう眠ったかと思った頃、我知らず ふと口が開いた。 「夜神くん」 「……」 「浮気ですか?」 「……」 私は一体何を……。 訊くつもりなどなかったのだから、答えがなくとも気にならない。 やはり眠ったか、と私も目を閉じた所で、微かに息を吸う音が聞こえた。 「……かもね」 「そうですか」 魅上と手に手を取って逃げる、か。 それも良いだろう。 いつまでメロの追っ手をかいくぐれるのか見物だ。 「おやすみなさい」 「……おやすみ」 それから、すぐに本物の寝息が聞こえて来た。 私はニアに、計略が功を奏したと嫌味のメールを送ってやろうかと思ったが、やめた。
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