CAN’T HELP FALLING IN LOVE 2 シャワーを浴び、ジーンズだけを穿いてベッドの枕に座り込む。 元々ベッドで寝る習慣はなかったが、これもワタリと夜神のタッグに 破れた結果だ。 膝にノートPCを乗せ、調べ物をしていると、バスローブを身に纏った夜神が 入って来る。 「失礼」 「はあ……どうぞ」 本当に来たのか……しかも。 「何で裸なんですか」 バスローブを肩から滑らせて、ハンガーに掛けた夜神は 下に何も付けていなかった。 「お前を見習っただけだけど……気になる?」 「私は下は穿いています」 「まあ男同士なんだ。気にするなよ」 「あなたの場合は、襲われそうで怖いですね」 そうだ……夜神は「女性も含めて、婚前交渉はしない」と言っていた。 私との「婚姻関係(?)」を確たる物にする為に、私を女役にしたら? 不覚にも鳥肌が立ったが、夜神は小さく肩を竦めた。 「まさか。そんな事はしないよ。 僕はお前を拒まない。それだけだ」 「安心しました」 夜神は、くすり笑って隣に横たわり、私の腰に手を回す。 「……何なんですか今度は」 「別に……男の身体に馴れて置こうと思っただけ」 「私は抱きませんよ?」 「そうかな?」 そう言って夜神は、私の局部を……ジーンズの上から、 ゆっくりと撫でた。 「止めて下さい」 「どうして?」 「どうしてって」 全く……!何なんだお前は! 「手を離しなさい。再度触れたら、出て行って貰います」 「焦るなよ。冗談だよ」 「全然面白くありません」 くすくすと笑いながら肘枕をする夜神に。 私は些か乱暴にPCを閉じ、背を向けて横たわった。 翌晩は、珍しくニアがスカイプで内密に話したいと連絡して来た。 この子も私が夜神を飼っている事を快く思ってはいないようだが、 メロと違って表立って何か言ったりはしない。 「じゃあ、先に行ってるから」 例によって裸にバスローブの夜神が、ドアを開けて顔を出す。 「はあ……寝てて下さい」 「起きて待ってるよ」 本当に起きていそうだが、どれ程言っても無駄なのは分かっていた。 無言でひらひらと手を振る。 だがドアを閉める前にウインクされて、脱力した。 さて。 「ニア、居ますか?」 『はい』 画面の向こうの、もやもやした白い物が持ち上がったと思ったら それはニアの頭だった。 「で、今日は何でしょう?」 『実は、EL-07の件なんですが』 メロとニアには、私が受けた事件の内、人手が要る物や 任せても大丈夫そうな件を任せている。 現在は、三人……いや、手伝わせているという事ならば 夜神も合わせて(一応それなりに戦力になっている)四人で 「L」を形成していた。 「聞きましょう」 だが。 今回ニアが持ってきた話は、どう考えても緊急の用件ではない。 いつもなら、ワタリに託してまとめて連絡して来るような案件だ。 ……私は。 勘が働く方だ。 ニアと話しながら、こっそりと寝室の監視モニタを起ち上げる。 緑がかった画面、自動的に赤外線モードになっているのだろう。 つまりもう常夜灯だけになっているという事だ。 薄闇の中、夜神は普通に居た。 少なくとも上半身は(恐らく下半身も)裸で、私のベッドに入っている。 「なるほど。ではそのホテルの全室に盗聴器を仕掛けたいと?」 『はい。どの滞在客が一味か絞り込む手段がないので』 モニタを時折見ながら、ニアと会話を続けていると。 ある時、夜神が何かに驚いたように起き上がった。 ニアに伝わらない程度に、気配を伺う。 「そうですね……金だけで何とかなるかどうか、ワタリと検討してみましょう」 モニタの中で夜神の口が、動いていた。 何と言っているのだろう。 “える”……か? ?誰かが……寝室を襲撃した? いや……夜神の反応の鈍さから見て、普通にドアから入って来たようだ。 馬鹿な。このフラットのセキュリティはそんなに容易には破られない。 誰かが、手引きをすれば別だが。 ……なるほど。 そういう事か。 私がモニタの中のニアを正面から見ると、彼は目を逸らした。 『こういう場合、その、支配人を調べて弱みを握るとか、そういう手段は 無しでしょうか』 やがて監視カメラの範囲内に、黒い影が映り込む。 無言でベッドに向かっているようだが、夜神が少し訝しそうにしながらも 行動しかねている所を見ると、どうやら知り合いらしい。 「有りとか無しではなく、必要が有るか無いか、です。 それなりに倫理は考慮して、可能な限り犯罪行為には手を染めないように 心掛けますが、必要があれば手段は選びません」 男はベッドの手前で立ち止まり、跪いた。 ……こんな事をする男は、私の知る限りでは一人しか居ないな。 また、寄りによって厄介な男だが……。 そういう事なら、取り敢えず夜神の身に危険はない筈だ。 ニアと話し続けながら、私は(多少の興味を持って)見守ることにした。
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