基督と満月 9 朝になり、寝台の上で寝返りと打つとメロもこちらを向いて目を開いていた。 「おはようございます」 「……ああ」 ……昨夜私が終わった後、メロもLを抱いた。 興奮したが、私の事もメロの事も、一連の行為は何か儀式に似ていて……。 何とも不思議な気分だった。 一年前、心ならずもLに抱かれたメロと私が、 今度はLを抱くなんて。 それは復讐でも何でもなく、ただの行為なのだが。 やはり朝になってみると信じがたいような心持ちだ。 メロも終わった後、評定を待つ生徒のように畏まった私達に、 裸で寝台に横たわったままのLが(腰にだけ布が掛かって、やはり十字架から 下ろされた救世主のようだった)呟くように言った。 『……悪いですが。何故か被支配感はありませんでした。 やはり、明らかに私より勝った相手でないと無理なのか……』 それが怒っているようでも申し訳なさそうでもなく、 本当にただ訝しげな声で。 自分の立場も忘れて、ついきつい口調で言い返してしまった。 『ならば、月に頼みなさい。私を抱いて下さい、と』 『さっきも言いましたが、彼には出来ないでしょう。 それに私は、欠けた月は好みません。欲しいのは満月です』 『だったら!』 思わず大きくなってしまった声に、思わず手を口に持って行ったが、 視線を合わせたメロは、大きく頷いてくれた。 『あなたの中で答えは決まっているじゃないですか。 迷う事も困る事もない』 Lは目だけを動かしてじろり、と私を、初めて睨んだ。 『……分かったのは、先程です。 礼を言います。ありがとうございます』 『……』 『お陰で、この闇夜から抜け出す事が出来そうです』 そう言って天に向かって大きく手を伸ばしたので、 私はメロの手を引いて退出した。 そして捜査本部に顔を出して、疲れているのでもう寝るとだけ言って 部屋に戻った。 「Lは、今日動くと思うか?」 「ええ、そう思います」 私は寝台の上に起き上がったが、思いがけず身体が重かった。 「……私はLが、あんな、子どもみたいな人だとは想像していませんでした」 「そうだな。でも、だからこそLらしいとも思う」 ああ……そうか。 子どもの純粋さを失わないからこそ、まるで数学や物理学のように 軽やかに犯罪を解きほぐしていくのだろう。 たった一つの「解」に向かって。 だが、彼はもう。 「……メロ。今も、Lを継ぐ覚悟がありますか?」 「ああ、勿論」 「私もです」 「ああ……」 最後の、メロの擦れそうな答えに。 胸が押し潰されそうな気がした。 私は寝台から降りて足を引きずりながらメロのベッドに向かい、 二人で静かに抱き合った。 午後になって、Lが私室に私達を呼んだ。 行ってみると月も丁度来た所だったようだ。 Lは例によって、甘そうな干菓子を摘んでいた。 「おい、何のつもりだ?父さん達が怪しむだろう?」 「……月くん。私はこれから、あなたがキラであったという証拠を 見せようと思います。 嫌なら、出て行って貰って結構です」 「!」 月が、虚を突かれたように目を見開き、青ざめる。 恐らく彼は、自分が十三日の制約によって容疑者から外れる訳ではない事に 気づいているのだろう。 だが気丈にも、小さく首を振った。 「僕は、客観的に見て僕がキラではあり得ない、という立場を変えない。 おまえが僕がキラだと証明すると言うのなら、僕はそれを崩す」 Lの後ろでリュークという死神がニヤニヤ笑いながら『あ〜あ』と言った。 「分かりました」 「ちょっと待て、L。なんで俺達がこの場にいるんだ?」 「見たくないですか?キラ事件の決着を」 「いや、見たいけど」 聞いていた月が、柳眉を逆立てた。 「決着が着くと言うのなら、他の捜査員も呼ぶべきじゃないか?」 「それをすると困るのは月くんです」 「困らない!すぐに呼んでくれ」 「失礼しました。本当に困るのは、私なんです。 どうか今はここで、話を聞いて下さい」 Lに適当に丸め込まれ、月も矛先を納めるしかない。 「まず、これを飲んで下さい」 「このお茶?何故だ?」 言いながらも月は、自白剤が入っているのではないかなどと、 疑う事こそ恥とばかりに湯呑みの中身を敢えて無造作に干す。 だがその途端、 「?……うわああああああああっ!」 断末魔のような、悲鳴を上げた。
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