基督と満月 10
基督と満月 10








見ていると月は数秒で静まり、はあっはあっ、と過呼吸症候群のように
荒い息を吐いた。


「こんな……、こんな、」

「月くん。……いや、キラ。また会いましたね?」

「……」


息を荒げながらゆらりと立ち上がった月は、確かに表情が一変している。
「まるで別人」、か、なるほど。


「あなたの時計の中にあった紙片、随分役に立ちましたよ」

「……」

「今飲んだお茶は、デスノートの紙片を溶かし込んだお茶です」

「……ああ……ああ、そういう事か」


まだ全力疾走をしたかのように、肩で息をしている。
息を整えているようにも、その振りをして考える時間を稼いでいるようにも見えた。


「リュークは久しぶりでしょう?懐かしいですか?」

『俺の方は毎日見てたけど』

「……ああ。こんな再会を果たすとはな」


月はやっと落ち着き、くっくっ、と笑うとLに向き直った。


「ノートを手放す時、僕はもう終わったと思っていたが」

「やはり、ノートを肌に付けている時だけ記憶が戻るんですね?」

「ああ、そうだ。
 だから僕は火口を殺し損なった時、あのノートの既に切り取ってあった場所から
 少しだけ千切って肌身離さず持っていた」

「……抜け目ありませんね」

「だがおまえがノートを燃やしたら、制約に嘘がある事がばれるからな。
 本当に終わったと思って、その時にその切れ端も捨てた」

「とか言って絶対どこかに保管してありますよね?」


命の遣り取りをした二人なのに、まるで天気の話をするような穏やかな会話。
それが余計に怖かった。


「……で、何が狙いだ?」

「と言いますと?」

「おまえは既に、僕がキラだと知っていた。
 リュークが居るのなら、いつでも僕を捕縛する事が出来た筈」

「……」

「それをしなかったのは、そしてこんな閉鎖された場所で
 僕の記憶を戻したのは、何か狙いがあるんだろう?」

「ご明察です」


Lは砂糖の塊のような干菓子を、ぽん、と投げて口に入れる。


「何故僕を逮捕しない?」

「取引をしたいからです」

「取引?」

「応じてくれますか?」


夜神は凶悪に目を細めたが、やがて小さく顎を上げた。


「……逮捕されたら死刑しかないんだ。
 それを免れるとなれば、どんな条件でも呑むしかないだろ」

「物わかりが良くて助かります」


Lはさすがに安堵したように、大きく息を吐いた。
私は席を立った。


「……なら、我々はここで失礼します」

「見ていても良いんですよ?」

「断る!」


メロと代わる代わる言いながら、私達は踵を返す。


「何なんだ?」

「気を使ってくれているんですよ」

「よく分からないが……それより、取引の条件とは?」

「そうですね、もう一冊のノートはあなたがどこかに隠したのですね?」

「ああ」



……Lが、月に支配されたいと言うのなら。
それも、欠けた月ではなく、満月……キラが良いと言うのなら。

キラを取り戻し、キラに支配されるしかない。

だが、世界をキラに支配されるような事があってはならない。

つまり、Lが月を御して、自分を支配させるしかない。
それにはこの危険な取引しかないが、彼なら出来るだろう。



「まず、そのデスノートと火口のノートの切れ端を提出して下さい。
 そして記憶を定着させて下さい」

「それにはノートの所有権を得なければならないけれど、
 ここにリュークがいると言う事は今の所有者はおまえだと思う」

『ああ。持ち主がいないノートの切れ端を長く持ち続けると、
 そいつが所有権を持つ……ったりするらしい』

「ならば定期的にデスノートの切片を飲んで貰います」

「何故そこまで……やはり、僕をキラのまま告発するのか?」

「しません。その代わり……」



……だがそうしてキラを手に入れると言う事は、
世界を裏切るに等しい。

きっとLは、十字架から降りる。
Lであり続ける事を辞する。

そして私は……私達は、「L」になるだろう。

「L」の遺伝子を受け継ぎ、彼を屠った私達には、その資格があるだろう。




部屋を出る時、Lの、あの憎らしいほど平静な声が聞こえた。


「私を、抱いて下さい」

「……え?」


振り向くと、憎々しげに笑っていた月が表情を消してぽかんと口を開けている。


「一生私の側に居て、私を満足させて下さい。
 それがあなたを逮捕しない条件です」

「……」


月は、一応口を閉じて眉を顰めた後、
ドアを閉めかけている私に顔を向けた。

その怒っているような助けを求めるような困惑しているような
何とも言えない視線は。

月の物でも、キラの物でも、ないような気がした。






--了--






※20000打踏んで下さいました、クロさんに捧げます!
リクエスト内容は、


「二アLを含むお話」でお願いします。

時期なら、少年二アも青年二アもOKです。
両方も出るのも大歓迎!リバもv

他のキャラの登場も、Lと二アが他人の絡みもご自由に。


そしてそれとは別に、

月が監禁させている時、Lは月の腕時計の中の紙を発見する
  ↓
火口が捕まれる時、一度返ったキラ月が火口を殺すのを失敗ながら
キラとLのちらり再会
  ↓
デスノートが燃えてなくなる
  ↓
キラの記憶を一時的に返られる紙がLの手の中だけにある
(デスノの表紙だけが、あるいは内のページも記憶を返らせるって、判らないが)
  ↓
リュークとLの出会い
  ↓
何故か月L


というパラレル設定のお話も頂きましたので絡めてみました。

本当は、ノートの切れ端をじっと見つめて葛藤するLとか、
一瞬戻って来たキラの記憶を何度も反芻して陶酔するLとか
Lとリュークの掛け合いとか
じっくりと書きたかった気もします。

ニア中心だったので、Lの方は設定を生かし切れず
申し訳ありませんでした。

最後、ちょっとLの隠居を想像させる感じでニアは切ながっていますが
Lはしれっと続けそうな気もします。
他シリーズのLと同じく、「キラの活動は止めたんだから問題ないですね」
とか言って。

あとニア攻めはもっと鬼畜にした方が良かったかな。
クロさん、レアなリクエストありがとうございました!






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