釣月記 7 終わった後、夜神が手錠を外してくれたので約束通り肩を填める事にする。 腕を上に上げ、ごり、と音を立てて骨が肩に入った瞬間、夜神は「うっ」と 色気のある声を出した。 思わずニヤリと笑ってしまい、睨まれる。 その後自分の後始末をして座り込んでいると、足で追い払われた。 「何ですか」 「床、拭くからどいて」 「ああ……」 相当具合が悪そうだが、血溜まりをこのままにして寝る事は出来ないらしい。 「それともおまえが掃除してくれるの」 「思いもつきませんでした」 夜神は溜め息を吐いて自由な方の手で雑巾を持ち、血や精液を 丁寧に拭き取り始めた。 「熱がありそうですね。医務室に行きましょう」 「ああ……捜査本部にはどう説明するの」 「合意の上でセックスしたけれどあなたのお尻が切れてしまった、と」 「マジ?というか合意なのか?」 「違います?」 夜神は肩を竦めて、「違わないな」と呟いた。 「それにしてもおまえが僕に惚れてるとは気付かなかった」 「そのように聞こえました?」 「そういう事だろ?」 今度は私が肩を竦める番だ。 「違いませんね。と、一応認めておきましょう」 「なら、惚れた弱みで助けてくれるわけ?」 「考慮中です。しばらくは他の『L』以外にはあなたがキラだという事実は 他言しません」 「助かる」 拭き終わった雑巾を簡易な洗面所で軽く洗う夜神の表情は 目に見えて晴れている。 しかし。 「少なくとも、次のセックスまでは」 そう付け加えると、洗面台に右手を突いて脱力した。 「……次は、切れた所が完全に治ってからにしてくれるかな」 「分かりました。後で医務室でよく診せて下さい」 夜神が「雑巾を絞るのは、やってくれ」と言っていたが、丁重に断った。 夜中の医務室のドアを開けると、夜神は辺りを見回した。 「こういうホテルって、本当に医務室があるんだ」 「医者が来るまでの繋ぎですから、応急手当が出来る程度の 設備しかありませんけどね」 「でも監獄もあるし」 「あれは殆ど使っていない地下の従業員休憩室を急遽借り切って 改装しました」 手でベッドを指し示しながら言うと、夜神は呆れたように笑いながら 横たわる。 「Lに、不可能はないみたいだな」 「まあ、一般人に比べたら少ないでしょうね」 「……キラを見つけても、逮捕しない事も出来るんじゃないか」 何気ない口調だが、緊張を孕んでいるのが感じ取られた。 もう俎上にあるのだから、そんな事を聞いても仕方ないだろうに。 「可能か不可能かと言えば、可能です」 「……」 「私が 『キラを事情により独断で処分した、その代わり二度とキラの犯罪は起きない』 と宣言すれば、世界はそれを受け入れるでしょう」 夜神は発熱のためか紅潮した顔のまま、自分でパンツをずらした。 「で……おまえは、そうするのか?」 「そんな質問をしながらお尻を見せられたら、媚びているように見えますね」 「……もう良い」 パンツを上げようとする手を、止めてやる。 武士の情けだ。 「良いんですか?さっきも言ったようにどちらに転ぶか分からないんです。 もっと私に媚びておいた方が良いんじゃ無いですか?」 夜神は肩越しに私を睨んだ後、「屈辱だ」と呟いてもう一度尻を出した。 私を喜ばせようと計算してやっているなら大した物だが、そうではないだろう。
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