釣月記 3 「どうでしょう。 あなたが寿命を半分にするのは勝手ですが、私は殺せませんよ?」 「!」 夜神は考える間もなく、宙に向かって手を上げた。 「リューク、取引中止だ。僕はまだ目を持ってないよな?」 『ああ?』 それから夜神は私を睨んだ後手元に目をやり、 もう一度私を睨んでノートを床に叩き付けた。 「……偽物なんだな?」 「当たり前です。あなたに本物を渡す筈ないじゃないですか。 そんな事も分からないなんて、相当狼狽していたんですね?」 「……」 「あなたには、本物のノートの切り取られたページの行方と いずれキラに代わって殺人を行う協力者が誰か、教えて貰わなければ」 夜神はそこで少し笑う。 「僕が自分の名前を書いたらどうするつもりだったんだ?」 「さぁ。私の手で殺してあげても良かったですが」 夜神は鉄格子の中に入ったまま、 私はその鉄格子に両手を入れて拘束されたまま、しばし無言で睨み合う。 やがて夜神は、簡易ベッドに座って溜め息を吐いた。 「……これから、どうするんだ」 「どうしますか?」 「こっちが聞いてるんだけど。 なら、このまま僕が何もしなかったら、どうなるんだ?」 「朝になれば誰かが来ます。 その誰かに私は助けて貰い、あなたを警察か公安に引き渡します。 その後は拷問か自白剤で事件のあらましを白状して貰う事になるでしょうね」 「そうか……」 穏やかにそう言って夜神は、ベッドの上に横たわって足を組んだ。 少しは取り乱すかと思っていたので意外に思う。 「夜神くん。何を考えているんですか?」 「う……ん……」 「もしかして、まだ何とか逃れようとしていますか?」 それともまだ、私が知らない事実が……奥の手が、あるのだろうか。 第三のキラ……ではない、のか? 死神……いや、死神が夜神に協力的だったとしたら、現在の状況がおかしい。 「例えば僕がとぼけたらどうする?」 「はい?」 「録画してないんだろ?その殺人ノートとやらも何の事か分からない。 僕はただ、おまえに手錠を外して貰っただけ」 「夜神くん……」 私は立っているのも億劫になり、手を手錠に預けたままずるりとしゃがんだ。 「私は、Lなんです。私があなたを犯人だと言い、その根拠を説明すれば それ以上の証明は必要有りません。 それに、実はあの監視カメラ、生きてます」 「そうか……という事は僕は完全に、手詰まり?」 「そうなりますね」 夜神は場違いな程ぼんやりしているように見えるが、その実 頭の中ではまだ逃れる方法をフル回転で考え続けているのだろう。 宙の一点を見つめて、口を引き結んでいた。 「それはそうと、この手錠外して貰えませんか? 手を上に上げたままだと痺れて来ました」 「僕は二十四時間つけ続けてたんだけど」 「どこかに繋がれていた訳ではありませんから自由度は高かったでしょう」 夜神は心ここに在らずと言った様子でベッドから身を起こし、 こちらに近付いて来る。 「死刑になる位なら、このままどこかに逃げようかな。 着いて来てくれる?」 「ご冗談を」 「いや、冗談抜きで。逃亡するなら人質は必要だし」 そんな軽口を叩きながら手錠の鎖を掴み、引っぱるので私は立ち上がり 腕を鉄格子の中に預ける。 夜神は私を鉄格子に貼り付かせたまま、体を寄せて手を伸ばし 私のジーンズのポケットを探った。 「これが手錠の鍵だな。……これは?この牢屋の鍵?」 「はい」 「逃亡生活が現実的になって来たね」 そう言いながら、更にポケットの底に、指を伸ばして……。 「……竜崎」 「はい」 「なんで勃ってるの」
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