vs toya koyo 7 『それで。公安の方が何故?通報とは?』 『ごめんなさい。今取り込み中だとお伝えしたのだけれど』 『ああ、おまえは構わん。下がりなさい』 ぱたぱたと、夫人のスリッパの音が遠ざかっていく。 と同時に、進藤と塔矢アキラが戻って来た。 『通報と言いますか……さる信用出来る筋からの情報で。 こちらの皆さんが、近頃日本棋院界隈で起きていた連続死事件の真実を知っていると』 『……』 皆、言葉に詰まっているようだ。 『ええと。こちらが、塔矢行洋先生ですか?』 『……ああ』 『他の皆さんはお弟子さん……』 『こちらの二人は違います。 プロ棋士だが森下門下の進藤本因坊と、留学生の楊月くん』 『ああ、進藤本因坊、テレビで見ましたよ!』 『こちらの方は、日本語は』 言いかけた模木が止まる。 下を向いて手帳にメモを取っていた松田も、顔を上げて……そして固まった。 『日本語は全然ぺらぺらですよ。 日本人と同じかそれ以上に喋れる』 答えた緒方も、二人の刑事の異常な様子に、少し眉を顰める。 『どうしました?』 終わった、か。 夜神は、まっすぐに模木を見て口を開いた。 『どうかしましたか?僕が誰かに似ていますか?』 この距離で誤魔化し通すつもりか、と思うと笑ってしまいそうになるが。 夜神は冷静な声だ。 嫌味な程に品良く微笑んでいるのが安易に想像出来る。 模木と松田は、 『月くん……』 『いや!そんな筈は』 明らかに恐慌を来していた。 『どうしたんですか?刑事さん』 『月くんは、死んだ筈だ!』 『でも!……っていうか、月くんだよね?俺だよ、松田桃太だよ!』 周囲の者達は、訳が分からないという顔で模木や松田と夜神の顔を交互に見る。 『月くん、生きてたんだ……』 『あー。多分それ、人違いですね』 『でも、声まで』 『世界中に似てる人が三人いるという話、聞いた事があります』 『月くん!』 松田は、大きく叫ぶといきなり夜神の右手を掴んだ。 『何す、』 無理矢理上に向けると……そこには、松田に撃たれた……弾痕の治った跡が。 『やっぱり!君は、月くんだ!』 ……。 本当に、終わった……。 棋士達はただ不審な顔をしていただけだが、模木と松田はただならぬ表情で夜神を見つめたまま中腰になった。 夜神は……俯いて少し考えているようだったが、やがてくっくっ、と笑いながら顔を上げる。 『……松田さん。相変わらずですね』 『楊月!え?おまえ、中国人じゃないの?』 『ええっ?嘘?何故だ?』 夜神はゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばしたのであろう。 彼等を見下ろす視点になる。 『お久しぶりです。模木さん。松田さん』 二人の刑事は、同時に脇に手を突っ込んで拳銃を取り出した。 聞き込めと言ったのに、犯人逮捕の可能性を考えて携帯して来たのか。 『うわっ!!』 『危ない!』 『何、何だ?』 『本物?マジ?嘘!』 狭い和室で、夜神に向かって銃を構えた二人と、座ったまま後ずさりをする進藤、緒方。 塔矢行洋は腕を組んだままだったが、アキラは片膝で立ち上がりかけている。 『ど、どういう事なんですか!刑事さん!』 『こいつは、キラだ!』 『は?』 『松田!』 軽はずみな松田を模木が窘めるが、もう遅い。 行洋も緒方も、アキラも進藤も皆口を開いて夜神に見入っていた。 『何……言って……』 『すみません、民間の方には詳細は話せません。 でもLに捕まって、処刑された筈だったんですが……』 松田のバカ。 『L?』 行洋がぼそりと呟くと、 『バレては仕方がないですね』 夜神はそれを遮るように声を張る。 最後の虚勢だろう。 『楊月……』 『模木さんと松田さんには、消えて貰いましょうか』 『月くん!』 『おっと、動かないで下さい。 こんな事もあろうかとあなた方の名前を、一画を残して書いてあります』 『……!』 ポケットにでもデスノートを隠している振りをして、手を突っ込んでいるのか。 模木と松田の顔色が変わる。 行洋達は、殺人手段が分からないなりに危機感を覚えているようだ。 『こ、この人達には、手を出すな!』 松田がじわじわと移動して、感心にも行洋達を庇うように立った。 まあ、デスノート相手では全く意味がないのだが。 『さて。どうしましょうかね』 凄味のある声に、進藤が 『ひっ、』 と引き攣った声を上げる。 『楊月さん!』 その時塔矢アキラが、青ざめた顔で立ち上がった。 『大丈夫です、ボク達は、あなたの正体について他言しません』 『ちょ、塔矢さん!』 『あなたは、いつでもボク達を殺せるんですよね? もしボク達の誰かが口外したと感じたら、その時全員殺せば良い』 さすがというか……。 刑事でもない一般人なのに、なんと肝の据わった男だ。 しかし何故? そして夜神は、何と反応するだろうか?
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