vs toya koyo 4 「有名なこんなサイコパステストを知っていますか。 “夫の葬儀中、そこに来た夫の同僚に一目ぼれをした未亡人。 その夜に自分の息子を殺害した。その理由とは?” 」 『聞いた事はあるが……まさか。 塔矢先生を葬儀に出席させる為に……日本に呼びもどす為だけに殺したと?』 「違うんです。出来れば葬儀にも出て欲しくなかったのでしょう。 ただ、これで私には犯人の動機が特定出来ました」 皆が、先程「訃報を塔矢行洋の耳に入れなかった」と発言した緒方を見る。 緒方は慌てて首を振っていた。 「とにかくこの人は、常用薬をすり替えられたのだと推測出来ます。 薬が切れたのか、効き過ぎたのか、意識が混濁した所で……」 言葉を切ると、静まりかえった中、アキラがごくりと喉を鳴らした。 「話を続けます。今回殺された囲碁ジャーナリストの中松さん。 この人も、塔矢行洋先生に対するインタビューが多いですね。 しかし塔矢門下の緒方先生やアキラ先生には一度もない」 『そうだったか』 「そうなんです。しかしこの人は健康だったんでしょうね。 通院歴もないし車にも乗らない。 それで、直接殺すしかなかった」 『……』 「最後の白川さんは、心不全。 心不全というのは心臓が止まったという意味なので、この場合は死因不明と同じ事です。 注射する時にカリウムでも混ぜれば、絶対にバレずに簡単に殺せます」 もう言う必要もないだろうが、話を進める為には仕方あるまい。 「皆さん、もうお分かりですね?」 『高森先生が……犯人だと言うのか』 「実行犯ですね」 『そんな……何の為に。 それに皆が高森先生の居る総合病院の世話になっていたというのは偶然が過ぎないか』 「いいえ。必然です」 頭の悪い連中だな……。 いや、普通の生活をしていたらそんな事は思いも寄らないか……。 『まさか、病院に来た知人を無作為に……?』 「そんな訳ありません」 『……』 「緒方先生。最近肺の調子が悪くて病院に行ったら、禁煙外来を紹介されましたね?」 『な!何故そんな事を』 「どうですか?」 『まあ……確かにその通りだが』 「高森先生に診て貰いましたよね?何故ですか?」 『何故って……それは塔矢先生の主治医であり、後援会の人でもあるので気易いからだ』 「ですよね。被害者達も同じかと思います」 『いや、後援会の会員でなければ顔も知らないだろう』 「そちらではありません。 塔矢行洋先生の主治医だから、です。 先生と少しでも繋がりを持つという事が彼等にとっては重要だったのです」 そう。 模木の推理はあながち間違えてはいなかった。 殺された、塔矢行洋の熱烈なファン達。 だがその動機は……。 「実は、五人の内四人までがパスポートを持っています。 その内三人は、最近取得している」 『……?』 『何の話だ?』 「残りの一人も、聞き込みを続ければパスポートを取ろうかと思っている、とどこかで発言していると思います」 そう。 彼等は……中国へ渡ろうとしていた。 死ぬほど、行洋の側に居たかった。 『まさか!』 『そんな、』 「行洋先生は日本に居なかった事もあり、渦中に有り過ぎて気付かなかったかも知れませんが。 動機は、情念にも似たあなたへの執着です」 『!』 「高森先生だけじゃない、彼等は全員ライヴァルだったんです。 皆あなたを、独占したかった。 日本を捨ててでも」 皆、一様に黙り込んでいる。 完全に夕闇に包まれ、モニタの灯りだけが皆の顔を照らし出していた。 それぞれ表情も消えて、まるでマネキン置き場のようだ。 「また、実行犯は高森先生でも、他に指示した人間が居るのかも知れません。 しかし少なくとも、高森先生は行洋先生が中国に渡られた頃からパスポートを取得しています。 一度も海外旅行に行っていないのに、です」 塔矢行洋は苦悶するように眉間の皺を一層深くした後、長々と息を吐いた。 「まあこの件については、皆さんにお任せします。 通報するなら、公安警察の模木という刑事にまず言えば話が通じやすいと思います。 長らく休職していましたが、そろそろ現れる筈です」 緒方とアキラは、無意識のように頭を振っていた。 「さて。今回に事件に関する私の見解は述べました」 これで模木への義理は果たしただろう。 「次は、本物のキラの話です」 『!』 皆、目が覚めたかのようにきょとんとしている。 『ええと、何の話だっけ』 『確かsaiの』 進藤ヒカルも、意味も無くきょろきょろと辺りを見回していた。 夜神一人が戦々恐々としているかも知れない。
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