vs toya koyo 3 全員が、息を呑む。 腕組みをして目を閉じている行洋と夜神以外の三人が、お互いに目配せをしあった後、アキラが今回初めて口を開いた。 『単刀直入に伺います。あなたは、saiですか?』 「違います」 即答にアキラの顔が引き攣る。 行洋も緒方も、分かってはいたが失望した、といった表情だった。 「しかし、saiの正体に迫ることは出来ると思います」 塔矢家の面々は顔を輝かせたが、今度は進藤ヒカル一人が引き攣っている。 『どういう事ですか!知り合いなんですか?』 『いや、そんな筈は』 『しかし、』 慌てている様は面白かったが、私は少し声を強めた。 「その話は」 皆が一斉に口を噤む。 saiを前にしては、まるで子どものような大人達だ。 「後でゆっくりします。その前に」 皆が夜神の方を見る。 この「L」は何を言い出すのだと、言いたいのだろう。 「せっかく『L』を名乗っているので……今巷を騒がせている、碁界連続死事件についての私の推理を少し聞いて頂けませんか?」 緒方が大きな音を立てて舌打ちをする。 それを聞いて行洋が小さく眉を寄せた。 『アキラから聞いているが、巫山戯ている。犯人はキラだとでも言うのか?』 「それも含めてお話しします」 『楊月とサユの影響を受けすぎじゃないのか。 オレ達はそんな事には全く興味ないんだが』 「身近な人物が何人も死んでいるのにですか?」 『何人も、かね?私は立野くんと下田さんしか聞いていないが』 行洋が意外そうに緒方に声を掛ける。 『先生にわざわざ帰国して頂くまでもない事なのでお耳に入れなかっただけです』 『それは』 行洋が、声を低めた。 『私が日本にいれば、葬儀に参列したであろう関係の人、という意味かね』 緒方とアキラが硬直する。 アキラの迫力は、父親譲りか。 「塔矢先生。現在の所は六人ですが、そのメンバーは問題ではありません。 問題なのは、あなたとの関係性です」 モニタを静かに睨み付ける行洋を、夜神が見下ろしている。 緒方とアキラは苦い顔をしていたが……。 『Lさん、少し良いですか』 その時、アキラがまた口を開いた。 「はい何でしょう」 『もし、僕がキラだと思っているのならお門違いですよ。 反証も出来ます』 夜神の目の前でしゃあしゃあと言う。 進藤は仰け反っていた。 今更何を……思わず今度はこちらが顔を顰めてしまったが、仕方が無いので黙って聞く。 『六人の内三人までの方が亡くなったその日、ボクのスケジュールは分刻みで詰まっていました。 トイレ以外常に人目に曝されていた。 キラだとしても、とてもじゃありませんが殺すような行動は取れません』 「なるほど。用意周到なアリバイですね」 『なっ!』 「冗談です。あなたがキラなら全ての事件のアリバイを作るでしょうしね」 『……ああ』 「まあ、あなたは違うでしょう。 私も故あって、今回の事件がキラの犯行だとは考えていません」 『……』 今度はアキラがモニタを睨み付ける。 彼は母親似だと思ったが、こうして見てみると行洋にもよく似ていた。 『第一、殺人事件は一つしかないじゃないか。 一連の死がキラの犯行だと言うのなら、アンタの言う通り、誰にもアリバイは成立しないから特定は不可能。 キラの犯行でないというのなら、偶然としか言えないだろう』 緒方は、火を点ける事が出来なかった煙草を所在なげに持て余しながら、苛々としたように反論する。 「可能な人が、一人だけ居るんですよ」 『どういう事だ?』 「皆さん、思い出して下さい。 最初に自殺したプロ棋士の立野先生。 何か悩み事があって、心療内科にまで通っていたとか」 『ああ、総合病院の』 「何故そこに通い始めたんですか?」 『確か高森先生のご紹介ですよね?』 「予診も高森先生がしたんですよね」 『そうでしたっけ?』 『分からない』 皆が眉を顰めて小声で話し合っていた。 だが、侵入した病院のデータには確かに残っている。 「次に感染症で亡くなった棋院の従業員の長陽さん、この人は塔矢先生がお若い頃から親しかったそうですね」 『ああ……気さくで物怖じしない人で、私も話しやすかった。 今回見ないと思ったが……亡くなっていたのか』 「この人も総合病院です。先生も人間ドッグに行った」 『……』 「次に病死した院生は、院生試験を受ける前に塔矢先生の門を叩いたとか」 『……まず、院生に受かってからもう一度来なさいと』 『しかし彼は生まれつきの難病で、何年も前から長くは生きられないと言われていた。 亡くなったのも別の病院だろう?』 緒方が口を挟む。 「はい。だから彼だけは一連の事件とは関係無い……と思いたいですが、私にも確信は持てません」 無関係だと思いたいが……手を回すことは不可能ではないだろう。 行洋は子どもの顔を思い出したのか、苦く沈んだ顔をした。 「次に死んだのは、車でハンドル操作を誤って事故死した、碁会所のオーナー。 下田さんも塔矢行洋先生の後援会の古株ですよね?」 『そうだ。帰国して葬儀に出た』 「それが一つ」 そう。それが一つの鍵だった。
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