Blind game 4
Blind game 4








「僕が日本人だからかも知れないけれど」

「はい」

「セックスの快感を増す為だけにそういう事を言われると……むかつく」


私が目を見開いたからか。
夜神は気まずげな顔をして、「何だよ」と言った。


「月くんでも『むかつく』とか言うんですね?」

「言うよ普通に」

「親しい人の前では?」

「……ああ。まあ」


耳が赤くなっている。
どうやらこれは、夜神の弱点だったらしい。


「で、どうしてそこで『むかつく』んですか?」

「だって」


子どものように言葉を切ったまま、黙り込む。
私はまた笑ってしまった。


「私、推理したんですけどね」

「……何を」


罠に掛かった鹿をいたぶるような、背徳感のある快楽に耽ってしまう。
対夜神限定の、私の悪い癖だ。


「あなたの態度に違和感が出て来たのは、進藤ヒカルに押し倒されてからなんですよね」


夜神は怯えたように肩を竦ませた。


「別に、あの時は何も、」

「ええ。ありませんでした。カメラで見ていたから知っています。
 でもあの時あなたは進藤に向かって、押し倒された時の心得として
 『愛しているなら愛していると、嫌なら嫌だと、はっきり言った方が良い』と言いました」

「……」


モロッコの穴蔵から助け出した後。
銀幕の女優のようだと思った儚げな男は、現在は美しさはそのままに精悍さを取り戻している。
だが今その頬には血が上り、目は潤み、発熱でもしているようだった。


「竜崎」

「はい?」

「もう許してくれ……」

「どうしてですか?楽しいのに」


こんな夜神は滅多に見られない。
火口を殺し、デスノートを取り戻した時はあるいはこんな様子だったかも知れないが、生憎私にもそれを観察する余裕はなかった。


「さあ、」


私は夜神に覆い被さり、その両手首を掴んでシーツに押しつける。


「押し倒しました」


夜神は唇を震わせ、浅く早い呼吸をしていた。


「言って下さい。愛しているなら愛していると。嫌なら嫌だと」

「……!」


夜神は泣きそうにも見える顔で固く瞼を閉じていたが、突然目を開けると私を睨み付け吐き出す。


「下らない」

「かも知れませんね」


このまま責め続ければ、取り返しのつかない事になる。
それがどんな状況なのか想像もつかないのだが、今後の仕事に差し支えるのは確かだという事は分かった。
私は手を離す。

夜神は……気付いてしまったのだろう。
自分が進藤ヒカルに向かって放った台詞によって。

私を自分に溺れさせると、利用してやると傲岸に言い放っていた男が、と思うと私も信じがたいが。
どうやら彼は私に、「愛している」と軽々しく言えない程度の感情は抱いているらしい。
それが、ポジティブであろうが、ネガティブであろうが、感情は感情だ。

だがそれを認めたくない。
だから、感情も快感も伴わない強姦のようなセックスは彼にとって楽だった。
怒りも湧かなかった。

夜神は上体を起こして手首を摩る。


「私の中であなたが重要人物なのは確かです。
 部下としても、影武者としても……セックスパートナーとしても」

「でも殺せるんだよな」

「それはあなたも同じでしょう。
 個人的は思いはともかく、あなたは『キラ』を守る為に『L』を殺しましたし、私も『L』を守る為ならあなたを殺します」

「ああ……」

「それでもあなたが私を愛してくれれば何かと便利かと思いますし、思い切ってあなたに依存してみてもいいかと」


最後まで言い終わらない内に、枕で横っ面を殴られた。


「僕は!」

「痛いです……」

「おまえを愛してなんかいない」

「何度も言いますが、一回は一回ですよ?」

「嫌いでもない。ただ僕が生きていくのにおまえは必要な人物で、ぶっ!」


人の話を聞かないし油断をしているので枕で殴ると、夜神はその枕に拳をめり込ませる。


「空気を読め!人の話を聞け!」

「聞いてますよ。
 私達はお互いに大切な相手だという事がはっきりしたのですから、仲良くしませんか?」

「……」

「あなたが塔矢に私の事をライヴァルと言ってくれて、嬉しかったんです私」


夜神は少しゆっくり瞬きをした後、眉を寄せた。


「……それも、嘘なんだろう」

「かも知れませんが良いじゃないですか。
 認めて下さい。私に感情を持っていると」

「そんな……」


ドラマか映画ならここは赤くなる所なのだろうが、夜神は青ざめた。


「……日本には言霊というものがあって」

「知ってます」

「口にする事によって、それが本当になるという考え方がある」

「……はぁ」

「そんな事を言って……」


夜神はそこで唐突にベッドから下りると、シャツや下着を拾い集める。


「本当に私を愛してしまうのが、怖いですか?」

「……」

「あなたはキラになった時、全てを失う覚悟をしたんですよね?
 なら問題ないのでは?」


実際、夜神が具体的な誰かを本気で愛した事があるのかどうか怪しい物だが。
妹との話を聞いていると、そういう障害を持っている訳でもなさそうだ。


「どちらにせよ、相手がおまえだっていうのが問題だよ……」


夜神は洗濯物を持ったまま、足を引きずるようにバスルームに向かう。
しかし、大きな心の重しを下ろしたその顔は、心なしか清々しく見えた。





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