Blind game 1
Blind game 1








程なく、夜神が帰ってきた。


「お疲れ様でした。どうでした?」

「クソッ!」


珍しく声を荒げて、顔を隠していたサングラスを放り投げる。


「完敗だった!」

「碁ですか?
 まあ、今日は先方が精神的優位に立っていたから仕方ないんじゃないですか?」

「我ながら落ち着いてたよ」

「ほう。キラに殺されかけていたのに」

「そんなわけないだろ」


夜神は不機嫌にどすんと音を立ててソファに身を沈め、高々と足を組んだ。


「彼は、キラじゃない。デスノートの存在すら知らない」

「最初慌てていたくせに」


少し揶揄うと、私を睨む振りをした後ニヤリと笑う。


「おまえもだろ?あれはさすがに予想外だった」

「ええまあ。
 でも彼はあなたとニアに疑われている事を知り、それを利用する事にした。
 中々肝の据わった人物ですね」

「そうだな。逆に言えば、もし僕達が警察に通報しても完全に容疑を覆す反証があるんだろうな」

「本物のキラを知っている。とか?」


部屋の隅でジグソーパズルを完成させたニアが、惜しげもなく崩しながら口を開く。


「ああ、ニア。ただいま」

「塔矢アキラは、キラを知っていると思いますか?」

「進藤ヒカルの事?」

「もしかしたら」

「どうかな……」


現在、キラ事件は不可解なまま収束した事件として世間に知られている。
民衆にとって、真相は闇の中だ。
勿論キラ捜査本部にいた者やFBIは、それが死神という現代科学では計り知れない超常現象によって引き起こされた物だと知っている。

しかし……例えそれが不可能犯罪だとしても、「何か」「自分には想像のつかない」「しかし現実的な」からくりがあると思い込むのが大衆という物だ。

正体不明の幻の棋士「sai」と、謎の大犯罪者「キラ」を関連づける事は、一般人には難しいだろう。
だが……これ程saiに執着を持ち、進藤ヒカルとも近しかった塔矢は、どうだろうか?


「まあ、いいでしょう。
 夜神くん、塔矢アキラにメールをして下さい」


私は少し考えながら、指示をする。


「対局する相手は一人、そして一局です。
 別に塔矢アキラでなくとも良いですが、少なくとも彼以上に強い人で。
 私に質問するのは自由ですが本当の事を答えるとは限りません。
 それと……」


夜神を見ると、何かを諦めたかのように小さく息を吐いた。


「進藤ヒカルも、その場に呼んでおくよう伝えて下さい」

「……」

「碁界連続死事件も含め、全ての真実をその時明らかにします」


私がその場で何を言うつもりなのか分かったのだろう。
夜神は一瞬少し遠い目をして、すぐに


「分かった」


と頷いた。






いつの間にかその場で眠り込んでしまったニアを抱いて寝室に下がった夜神は、すぐに戻って来た。


「今日はニアの部屋で寝ないんですか?
 あ、まだ仕事ですか?」

「いや。今日はおまえの部屋で寝る」


二日前の事があるのに、涼しい顔で言う夜神に思わず眉根を寄せてしまう。


「……どういう風の吹き回しですか」

「おまえと碁を打ちたくてね」


なんだそんな事か。
思わず笑ってしまいそうになるのを抑えて、唇を引き締める。
こんな時に機嫌を損ねるのは得策ではないだろう。


「おまえももう特に仕事ないだろう?」


だが、夜神はどこか淫靡に微笑んで、私の手首を取った。
……こいつの台詞ではないが、嫌な予感しかしない。

珍しい事に夜神に手を引かれて寝室に向かい、部屋に入るなりベッドの上に押し倒された。


「月く、」

「4の四、星」

「……」


目隠し碁?ベッドの上で?


「16の十六。星」

「16の三」


夜神は私のシャツを捲り上げ、腹に口をつける。


「ええと。大丈夫ですか?前、血が出てましたけど」

「うん。だから中は無理だけど」


そう言うと、夜神は徐にぺろりと私の臍を舐めた。
思わず腹筋に力が入る。


「楽しませてやるよ」

「はぁ……そうですか。3の十六」

「17の十四」


なるほど。
盤外戦込みの真剣勝負、という事か。


「14の十七」

「17の八」


顔を上げると、目を伏せ口を開けた夜神が、私の乳首に舌を延ばした所だった。


「珍しいですね……6の二」

「ん……この間のお詫びだよ。9の四」


ちろちろと、舌先で嬲られて思わず目を閉じそうになる。
夜神に見られるのは屈辱なので、意地で目を見開いた。


「3の、六」


夜神は長い睫を見せたまま、私のジーンズのジッパーを下ろした。


「まさか、私を抱くつもりじゃないですよね?」






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