Pot cooking 8 気に入りのロボットのおもちゃを手に取ったニアが、そのまま固まった。 「そうではないかと思いましたが……」 夜神の言うとおり、私には想像する事しか出来ないのだが。 死神かどうかはともかくとして、進藤ヒカルの子どもの頃の才能には、物理的ではない、超常的な何かが噛んでいるとしか思えない。 「進藤ヒカルに……囲碁の得意な死神が憑いていた、と?」 ニアがロボットの玩具のゼンマイのネジを巻きながら戻って来た。 「ああ。ソイツの指示を受けて打っていたとしか思えない」 「あり得ますか」 「僕に憑いていた死神は……ニアも見ただろう?リュークを」 「はい」 「彼は人間にデスノートを使わせて遊んでいた質の良くない死神だ」 「質の悪さでは」 茶々を入れかけたニアを遮って、夜神が声を大きくする。 「しかしLが見たレムは、ただただミサの幸せを願っていた」 「あなたが殺したレムさんですね。 彼……か彼女は、質の良い死神だと?」 「分からないが、とにかく死神にも色々なタイプが居るって事だよ。 囲碁が好きな奴もいてもおかしくないし、長く生きていればそこいらのプロより上手くもなるだろう」 なるほど。 久しぶりに思い出す。 白い骸骨のような、大きな死神。 一般的には恐ろしいと言われる外見なのだろうが、話してみると可笑しい程に常識的だった。 「では、進藤ヒカルはデスノートを持っている……」 「そこが分からないんだよな」 夜神は大学生のように投げ遣りに言って、伸びをしながら椅子の背もたれに身体を預ける。 「デスノートを持っていれば、死神は側に居る筈なんだ。 でも彼は『sai』に会いたいと言う。 死神が側に居ないという事は、彼はデスノートを持っていない……」 「しかし死神の記憶はあるわけですね。 デスノートの切片を、常に身に付けているという事でしょうか?」 「そうは見えなかったな」 夜神は視線をやや上に向けた。 進藤の家に行った時の、シャワーシーンを思い出しているのだろう。 「……なぁ、L。おまえたちには本当に、死神は見えていないのか」 「……」 何を言い出すのかと思えば。 「前に、デスノートの切れ端は持っていると言っていたよな? 本当か嘘か分からないけれど」 「言いましたね」 「もし本当なら、二人には僕に見えていない死神が見えているんじゃないのか」 なるほど……。 彼はずっとそんな疑いを持って、我々と生活していた訳か。 気付かなかった私も私だが、少し笑いそうになる。 「いや、それは別にいいんだけど。 もし死神と話せるのなら、その辺りと、囲碁好きな死神の噂を聞いた事がないかどうか、インタビューして貰えればと思って」 「見えてませんよ。 大体、ノート本体は燃やしてしまいましたから、死神は死神界へ帰っているでしょう」 「そう……か……」 何となく煮え切らないように自分の口元に触れていた夜神だが。 「本当ですよ。 居るのならあなたに言われるまでもなく、もっと早く色々尋問しています」 「それもそうだ」 やがて落胆とも安堵ともつかない表情で、大きく息を吐いた。 「しかしsaiが死神界へ帰った死神なら、彼等がどんなに会いたくても会えないだろうな」 「デスノート本体がない状態でもデスノートが使えるか、記憶が留められるのか、調べる必要がありますね。 外科手術歴や歯の治療歴は調べたんですよね?」 「勿論。少なくとも医療機関ではデスノートの切れ端を隠せるような手術はしていない」 ずっと小さくカタカタと音をさせていたニアのロボットが、「カタ……カ、タ」と動きを止める。 夜神と私が彼の方を見ると、ニアも顔を上げた。 「私の話も聞いて貰って良いですか」 「勿論。社に頼んだ内容ですよね?」 「はい。私はぶっちゃけ今回の事件とデスノートは切り離して考えています」 「そちらでもまあ、仮説は立ちますね」 「はい。 私が頼んだのは、塔矢行洋と、主治医の関係です」 ニアが珍しく顎と口角を上げた。 「どうですか?L」 「ご明答」 少し笑ってやると、ニアは俯いて髪の毛を指に巻き付け始める。 「勿論、主犯は他に居る……進藤やアキラや緒方である可能性も十分にありますが、少なくとも医者が噛んでいるのは間違いありません」 「だね」 「おや、前から気付いていたとでも言いたげですね、夜神」 「一応、病院から高森医師の治療データをダウンロードしてある。 それに外務省のコンピュータをハッキングして、パスポートを持っている面子も調べた」 「……」 ニアは口惜しそうに鼻の頭に皺を寄せた後、すたすたと寝室に下がっていった。 「あ、今日のnursery taleは……」 「要りません!」
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