Pot cooking 4
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「KIRA」……!


……ああ、進藤のハンドルネーム、か。


『キラ?』

『あ!……ああ、ネット碁の時使ってる名前だよ。オレの名前ヒカルだろ?
 “きらきらひかる”ってね』

『……』

『どした?』

『いえ……つい何日か前、キラ事件の話をしたばかりだったので』

『って!違うで、進藤はキラとちゃうで。
 つかキラが出て来る前からハンドルネームKIRAやったし。
 なあ?進藤』

『うん』


社のフォローに、進藤は心ここに在らずと言った声で返事をする。
集中力を高めている……のか?
あるいは。


『大体キラっちゅう柄でもないしな。
 どっちかって言うたら、緒方先生とかな』

『あの人は、自分に関係無い犯罪者を殺すのに時間使ったりしないだろー』

『そんなん言うたら、プロでそんな暇ある奴おらんやん』

『いや。分かんないぞ。桑原先生なんかめっちゃ早起きで時間を持て余してるらしい』

『桑原先生かー!確かにあの人が一番キラのイメージに合っとるかも』

『そうそう。キラって、戦争か戦後を体験した、変な正義感で凝り固まってるお年寄りってイメージ』

『おま、それ桑原先生ディスっとるんか?』


夜神がどんな顔をしているか、見てみたい物だが恐らく鉄面皮を保っているだろう。
ニアも、何でもない顔をしている筈だ。
例え心の中で大爆笑していても。

しかし何だろう、この、進藤と社の妙なテンション。
意味はないのか……いや。


『楊月も桑原先生と会っただろ?キラってか色々と黒幕って感じじゃね?』

『……そう、かな?』


意味があるとしたら……夜神を攪乱しようとしている?

何故?
……本物の「キラ」を、今回の事件の犯人を知っている?


『僕の中ではキラは、もっと若い人のイメージです。
 緒方先生は、“自分に関係のある犯罪者”なら、消しそうですか?』

『ああー、そういう訳じゃないけどさー』

『それとも、本物のキラに心当たりがあるんですか?』

『……!』

『まあまあ、楊月も冗談はそんくらいにして、進藤集中させたってや』


会話が中断したのは残念だが、今これ以上突っ込むのも怪しいだろう。
私もチェアの座面に座り直して自分の名前を入力した。


“L”


『“L”一文字?……ああ、オレがキラだからノッて“KIRA vs L”にしてくれたのか。
 そういや一般人と打ってた時は偶にそんな奴いたな。
 全然相手にならなかったけど』


すぐに画面に“対局開始”の文字が出る。
久しぶりに、夜神以外の相手にアドレナリンが出る音がした。






『終わり……やろか』

『さすがプロ、という所ですかね………』


進藤と私が打っている間、進藤の部屋ではパチパチと異音がしていた。
時折社がぼそぼそと何か言っていたが、聞き取れないし夜神も応えないので訳が分からなかったが。
どうやら、進藤と私の対局で打った石を実際の碁盤に並べて、検討をしているらしい。

私は、進藤ヒカルに追い詰められていた。
早碁に惑わされたつもりもないし、打ち損じもしなかったつもりだが……。

これが経験の差という物なのだろうか。
私はまだ甘かった、という事か?

……いや。

そんな筈はない。
私はこの勝負に、勝てる。

予感がある。
どんなに反証が出ても夜神がキラだと確信していた時のように。


……一分。

……二分。

……三分。


と、三十五秒。

……パリッ、と、メロが好んでいたチョコレイトを囓って。
私はマウスを動かした。


『あ、Lが動きました』

『いや……まさか』


パチパチ、パチ、と、夜神と社が慌ただしく石を動かす音がする。


『細いですが……ありますね』

『こんな手が……』

『いや、まだ、』

『どうやろ……』


夜神と社の声は確かに聞こえているが、脳の処理速度が極端に遅れている。
血が脳に集まり、自分の耳まで少し熱くなっていた。

だがそんな自覚が出来るという事は、それなりに頭が冷えてきているという証拠だ。
本当に、久しぶりに我を忘れる程頭を使った。
今の一手を打つ前なら、例え誰かが横に立って拳銃を突き付けられても気付かなかっただろう。

ふ、と息を吐く。
背もたれに体重を掛け、片足を下ろした。

パチ、と電子で作られた音がして、進藤が一手を打つ。
予想通りの手だ。
前半の早碁のお返しのように、ノータイムで最善手を返す。

どうだ、進藤ヒカル。
今から後は、私は絶対に、間違えないぞ。


それから僅か20秒後、画面に“KIRAさんが投了しました”という文字が出た。






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