Burning 4 私はLの顔が見られず、Lが正気を失っているのではないかと恐れたが Aが退室すると共に隣から溜め息が聞こえた。 「……しかし参りました」 「そうだな。教授という目立つ目印があったから追跡しやすかったし、 捕まえれば教授から色々聞けると思っていたのに」 夜神……教授を失って、どうやらショックを受けているらしいLに対して いきなり教授を目印扱い、というのはどうなんだ。 しかし、Lが腹を立てた様子はなかった。 認めたくないが、やはり夜神は他人の……Lの心の機微に敏いのだろう。 「はい。ぶっちゃけ、もう手掛かりは消えたと言って良いでしょうね」 「また先方からの接触待ち、か。 しかし金髪が教授を殺すとはな」 いや。 名前もなく目印もなく、身軽になった金髪を見つけようとするのは、 藁束の中に一本の針を探すに等しい。 逆に言えば、それだけ足手まといだったという事だ。 利用価値が無くなれば、簡単に捨ててもおかしくはない。 「教授のDNAデータってありましたっけ」 「私の家庭教師の情報は全てワイミーズハウスですので 運が良ければファイルか何かが残っている可能性もありますね」 それを聞いた夜神が、すぐにロジャーに国際電話を掛ける。 もし残っていれば、爆発現場に残ったDNAと照らし合わせ、 教授の死を確認するのだろう。 かなり迂遠な作業だが、やって貰うしかない。 私も、アイザワに電話を掛けた。 「ミスターアイカワ?」 『ああ、Lか。今忙しいので後にしてくれないか』 「こちらも火急なんですが」 『爆発事故があって大変なんだ。模木も巻き込まれて重傷だ』 「……重傷?」 『ああ。誰かの死体を運び出した所で建物が爆発し、 落ちてきた瓦礫が肩に当たって骨折した』 「……」 骨折……。 体の力が、抜ける気がする。 モギの生死は今回の捜査に何の影響も与えないというのに。 私は自分の中に凡庸……いや人並みの反応を僅かながらも発見して軽く驚いた。 「生きて……いるんですか」 『縁起の悪い事を言わんで貰いたい、もう切るぞ』 「待って下さい。モギさんが運び出した死体とは?」 『さあ。外国人の老人だ。担架ではなくストレッチャーで運んだ所を見ると 元々ストレッチャーに乗っていたのかも知れない』 私が電話を切ると、夜神も私を見ながら、ロジャーに用事が無くなった、と 伝えている所だった。 「どうやら僕達にはまだ運があるようだな?」 「ですね」 「模木さんが生きていて、本当に良かった……」 夜神は心底安堵したように、天を仰いで目を閉じる。 何度見ても、素直に情を見せる様子には違和感があった。 そんな事を思いながら眺めていると、不意に目を開けて横目で私を見る。 「偽善者だと思ってるだろ」 「ええ、まあ」 「犯罪者じゃなくても平気で殺したキラのくせに、と思うのなら 学習した、と考えてくれ」 「学習」 「そう。人が死ねばそれだけ自分の精神も痛む。 気付かないように目を瞑っても、やはり傷はつく、という事に気付いたんだ」 「へぇ。意外ですね」 「新しい世界を作ると言った大義の前では些細な傷だし耐えると言う程の事もないが 今の僕には耐える理由が無い」 「……」 本気で言っているとは思えないが……一理はある、か。 では私も。 Lという「仕事」から解放されれば、人並みに些細な事で傷ついたり 心を痛めたりするようになるのだろうか? それとも年齢を重ねれば、Lのように探偵をしながらも 私情を出せるようになって行くのだろうか。 「さて。模木さんの次に使えるのは誰です?」 元通り無感情なLの言。 自分が思考が思考だったので、笑ってしまいそうになった。 やはりLは、感情をコントロールする術を知っているのだろう。 「相沢さんは無理だな。伊出さん……は、ニアと繋がりがないし」 「マツダ……はナシですね」 「ナシだな」 「山本はどうです?月くんから見て」 ヤマモト、か。 確かにあいつならマツダほどではない。 英語も流暢のようだから、込み入った話になったとしても伝わるだろう。 「高校の時は少しそそっかしかったけど、人柄的には信用出来る奴だよ」 「月くんから見て、ですか」 「誰に対してもだよ。 おまえが嫌じゃなければ、調査や報告を任せても良いと思う」 「とは言え、相沢さんに我々の動きが筒抜け、という事になりませんか?」 私は、ヤマモトの人の良さそうな笑顔と、泣き顔を思い出す。 きっとそれなりに責任感はある男なのだろう。 慎重に口を開いた。 「ヤマモトは洞察力はあるタイプだと思います。 あと私なら……『L』ではなく『Jane Smith』として彼を使えるかも知れません」 「なるほど。墓地で会った時の偽名か。 民間人としての頼みなら、相沢さんに漏れても問題ない」 私は早速予備の携帯からヤマモトにメールした。 件名:Do you remember me? 本文:We met in front of a grave of Yagami. Aren’t you a police? My uncle seemed to be rolled up in a case in Japan. Would you help me? 異国に来て、唯一の身内である伯父が事件に巻き込まれ 藁にも縋る思いの憐れな外国人少女、という設定だ。 ヤマモトからはすぐに返信があった。 私を気遣うと共に、タイトルからスパムメールだと思ったとか、 警官だと言った覚えはないが、どこで知ったのかなどと、本題に触れず 用心深い文章だ。 “言いました。詳しく覚えていませんが、夜神さんの話をした時に、 同業者だというニュアンスの事を言ってましたよ” “そうだったっけ?分かりました。どんな手伝いが出来ますか?” “○○県の×ホテルで爆破事件があったと、今TVでテロップが流れました” 横目でモニタの一つを確認する。 今現在流れているので、ヤマモトに最初のメールを送った時点では 公になっていなかった事件だろうが細かい事は良いだろう。 “そこで障害者の国際会議があった筈なんですが、 そこに伯父が居た可能性があって。 電話が全然繋がらないんです” “伯父さんの名前は?” “アーサー・ドイルです” “了解。実は今現場に向かってます。 近隣の病院を調べて、また連絡する” “大柄な白人で、元々寝たきりです。 名前が分からなかったり違っていても、情報をお願いします” “了解”
|