Burning 3
Burning 3








Lも、彼にしては少し間を開けた後、押し続ける。


「あなたも市民です」

『それ以前に公僕です』


それきり一方的に通話が切れ、Lはなにか考え込んでいたが、
私は思わず舌打ちをしてしまった。


「死にたいんですかね、彼」

「いや。彼の気持ちは分からないではないな」


殆ど独り言のつもりだったが、意外にも夜神が静かに答える。


「ご冗談を」

「真面目だよ。僕が彼の立場でも、きっと同じことを答えた」


大量殺人犯が何を言うのかと、薄気味悪くなって思わず見つめてしまった。


「おまえは笑うだろうけれど、僕は善良な人々を最大に助けたいと思うよ。
 その為には手段を問わないし、自分の命だって賭ける」

「……」


そう言えば、ヤマモトもそのような事を言っていたな。
夜神ほど他人の為に生きようとしていた奴もいなかった、と。

その手段がデスノートだったと言うのはあまりにも笑止だが。



それからLは頭を切り換えたのか、すぐにPCに向かった。


「取り敢えずライブカメラで現場の様子を見ましょう」

「既にやってる」


夜神がマウスでクリックすると、近隣のビルの屋上かららしい、無音の映像が流れた。
近隣とは言え地方のホテル、巨大な駐車場と広い道路を挟み、全貌が見える。
上層階辺りに煙がたなびいていた。


「これなら延焼はなさそうだな」

「という事は、もうこのホテルは駄目だと?」

「まだ助かると思うか?」

「……」


モギだけでも、助かって欲しいと思う。
私とて人間なのだから、見ず知らずの他人が死ぬより顔見知りが死ぬ方が不快だ。
だが、あの様子では助からないだろうとも思う。

本格的な爆発まで、少なくとも金髪が脱出するのに必要なタイムラグはあるだろうから
その気になればモギとその周辺だけは助かった。
しかし、本人がそれを良しとしないのだからどうしようもない。

私は人の死に必要以上に心を動かす事は決してない。
その前にいくらでも為すべき事はあるのだから。


私達三人は、黙ってライブカメラの映像を見続け、その時を待ち続けた。


五分ほど何事も起こらず、もう爆破はないのではないか、と思い始めた時。
突然、映像が揺れた。


「……!」


思わず息を呑んでいると、映っている建物の中程から大量の煙が吹き出す。
二、三秒画像が乱れ、元に戻った途端にホテルの真ん中から上が、僅かに傾いた。


「いけない」


隣で夜神が呟く。
もう、何を言っても無駄だろう。

無音の映像の中、ホテルの上半分が、砂の城のように崩れる。
驚く程ゆっくりと、だが絶望的に着実に。

やがて加速度的に崩壊速度は速まり、駐車場が灰色の煙の覆われ、
視界がどんどん悪くなって、しまいにはカメラの画面には煙とゴミしか映らなくなった。


「……」


三人とも言葉が無い。
やがて、電話の発信音が響いた。
Lが、再びモギに電話をしたらしい。

沈黙の中、何度も呼び出し音が響く。
常に3コール以内で出ていたモギだ。
きっと、そういう事だろう。


「……金髪はもう逃げたでしょうか」

「これだけ時間を稼いでおいて逃げていなかったら驚きですね」


電話を切ったLが、親指をがりがりと噛みながら答える。
どうやら苛立っているらしい。


「月くん。逆探知はどうでしたか?」

「それが……さほど経由地は多くなくて。
 最寄りの中継基地がホテルのある○○市だという所までは分かったから
 現場に居たと考えて良いと思う」

「どうですかね。ならばそれがフェイクだという可能性もあります」

「あるけど」


Lの八つ当たりを軽く受け流し、夜神はPC画面に目を戻した。
そして、また小さく息を吸う。


「どうしました?」


覗き込んで、私もまた口を開いてしまった。
隣でLが、舌打ちをした音がする。


A “肝に銘じておけ”


再び入室したAの、ただ一言。

下手な小細工や時間稼ぎは自分には通用しない、という事だろう。
慌てて手元のキーボードに打ち込もうとした時、Lの指が伸びてきた。


L “爆破はおまえの仕業だな?”

A “Yes と書くか No と書くかで何か違いがあるか?”

L “寝たきりの教授を連れて、よく逃げ延びたな”

A “教授は置いてきた”


置いてきた……見捨てたという事か?
Lがカタカタ、と、二つだけキーを押す。


L “?”

A “教授の知識、教授の頭脳、全てコピーした”

L “それが可能だとして、だからもうオリジナルは不要だと?”

A “Yes”


バン!

すぐ横でテーブルが鳴り、思わずびくり、と震えてしまう。
Lが思い切り叩いたらしい。
Lが、あのLが感情を乱している……?

「A」の言う事が本当であるという確証もないのに。
いや……そんなすぐにバレる嘘を吐く意味もない、か。


L “教授はおまえを支えにしていた”


Aの返事はない。


L “何故おまえに手を貸すのか問うた時、
  『声ヲ ナクシ 足ヲ 失イ 一人デ 暮ラシテミレバ ワカル』
  と言っていた”

A “感傷的だな”

L “教授は最後に選択を誤った。
  しかし彼の晩年が孤独でなくて良かったと思う。その点だけは礼を言う”


Lはキーボードから手を離して待ったが、結局返事は無かった。
Aはそれきり発言せず、二分四十秒後に退室した。






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