Burning 1
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結局、モギからデンマーク人の居所の連絡がないままに、翌朝を迎えた。


『今日正午までに分からなければ、結構です』

『面目ない。今から監視しているドイツ人医師とアメリカ人技師の映像を送る』


彼等が教授である可能性は限りなく低い。
興味はなかったが一応見て見ると、アメリカ人技師は障害者の
国際会議に出るらしい。

どこかの会議場のロビーの監視カメラの荒い映像に、何人か車椅子や
介助と共に移動する人間が映っていて、その中の一人に赤い丸がついていた。


「どうです?」

「違うな」


夜神のにべもない一言に、分かっていた事ではあるがやはり落胆する。

そのシンポジウムは国際会議とは言え、大半が東洋人だ。
まあ「国際」と銘打ちたいだけで、大半が国内在住の障害者なのだろう。
白人や黒人は、数えるほどしか、


「!」


その時、Lと夜神が同時に息を呑んだ。


「どうしました?」


二人が同時に指差したのは、赤丸の手前に居る、大柄な白人男性だった。
車椅子と聞いていたが、ストレッチャーに横たわっている。

私はすぐモギに、


『送ってくれたアメリカ人の画像の、左下に移っているストレッチャーの
 白人のプロフィールを調べて下さい』


とメールした。

改めてストレッチャーに付き添っている男を見たが、俯いていて全く顔が見えない。
しかし、確かに若そうな男で……金髪でも黒髪でもない明るい髪色だが
肌の色は相当白そうだ。


「どういう事でしょうか……」

「この男性がノーマークだったと言う事は、アメリカ人技師でもドイツ人医師でもない。
 偶々デンマーク人がここに来たのか、」

「あるいは在日外国人と入れ替わったんだろうな。
 もしかしたら教授が入国した時のパスポートは、既に国外に出ているかも
 知れない」


Lが言いかけたのを、夜神が引き取るように言う。
なるほど……敵の方が一枚上手だった訳だ。
しかし、こんな所で偶然見つかったのは相当運が悪いとも言えるだろう。


「L、夜神、このストレッチャーの男性で間違いないですか?」

「恐らくね。まさか見つかるとは思っていないのだろう、ほとんど変装もしていない」

「となると、金髪は……」


色々と仮説を立てていると、モギから早速返信があった。


「元英語教師のアーサー・ドイルか、アメリカ系日本人のテッド・アユカワの
 どちらかと思われる。後ほど絞り込んで連絡する。
 このシンポジウムのサイトアドレスは以下」


さすがにツボを押さえている。
余計なコメントどころか一文字の無駄もない文章に、感心せずにはいられなかった。


「やはり在日白人の名義らしいですね」

「シンポジウムの日程は……」


午前中は開会式と交流イベント、昼食会を経て午後はパネルディスカッションと映画の上映。
障害者にはきついスケジュールだ。
全部に参加するとしたら金髪はとてもではないがチャットなどしている暇はないだろう。


「教授の介助を他人に任せると思うか?」

「どうでしょう……当たり障りのない会議ならその可能性もありますが
 教授がわざわざこんな所に顔を出す、という事は」

「……まあ、シンポジウムを隠れ蓑に何かしたい事があるんだろうな」

「となると、金髪も離れる訳はない」


チャットは正午から……会議場のあるホテルに部屋を取っていて、
昼食の時間はそこに下がる、という事だろう。


「今はイベントですね……どうしましょう、人員を配備して貰って確保させますか?」

「いや……ちゃんとしたパスポートを用意していたら誤認逮捕のような事になる。
 それより、チャットでこちらを探知するつもりならそれなりのソフトが入ったPCを
 用意しているだろうから」


その現場を押さえた方が堅い、か。
夜神にはこういう慎重過ぎる程慎重な部分もある。
しかしLは、違った。


「私は逆ですね。出来るだけ早いほうが良いと思います」

「へぇ。それは?」

「敵は本来昨夜チャットしたかったのですから、PCも既に用意してある筈です。
 まあ、それが逆探知用だと証明するのは難しいですが、素人用ではないソフト、
 確保して取り調べは充分出来るでしょう?」

「その時に僕達が直接見て、か」

「はい」

「でも万が一、金髪の狙いが単純に僕達と話したいだけだったら?
 あるいはリモートホストを使い、時間を犠牲にして自分のPCに痕跡を残さず
 逆探知して来たら?」

「そこは賭けですね。月くん、あなた今回の目的を忘れてませんか?
 取り敢えず教授と金髪を確保する事。証拠なんか二の次です」


確かに……。
奴らの居場所が分かったのは、とてつもない僥倖だ。
この機を逃しては、次にいつチャンスが来るか分からない。
それまでに、夜神の動画を世界中に流されてLも夜神も破滅させられるかも知れない。

だが。


「夜神。あなたまさか、奴らが捕まって欲しくない訳じゃないですよね?」

「当たり前だ」

「奴らを泳がせて、こっそり接触しようとか考えてたりしませんか?」

「……」


夜神は怒りに燃える目で私を睨み付けた。


「そんな事が出来ないのは、おまえが良く知っているだろ」

「どうでしょう?私があなたの名前をデスノートの切れ端に書こうと
 思いついた時点でもう手遅れ、という可能性もあります」

「不可能だ。僕が、万が一日本国内にデスノートを隠していたとしても、
 現在は持っていない。Lが保証してくれる」

「そうでした。うっかり忘れてました」

「嘘吐け。今のは嫌がらせだろ」

「はい」

「……」


下らない会話をしている内に、Lはメールを打っていた。


「そういう訳で、出来るだけ早く確保して貰います。
 いいですね?」

「はぁ……」

「ああ、うん」


二人して間抜けな返事をしてしまい、思わず顔を見合わせる。
私もだが、夜神も自己嫌悪にまみれた顔をしていた。






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