戦場の記憶 4 夜になった。 静かだが、静かすぎて何故か目が冴えてそっと起き上がる。 自分のモバイルに手を伸ばしかけたが、ふと昼間の事を思い出して 隣のLに目を遣った。 熟睡している様子なので、レーザーライフルを勝手に借りて、洞窟を出る。 外は満月が冴え冴えと輝き、舗装されていない道も明るい。 崖の淵に立つと、随分遠くまで見渡せた。 月は夜でも、全てを余さず照らし出す。 Lの言っていた、狙撃銃でも照準精度が酷かった時代。 こんな夜は、スナイパーにとってはありがたかっただろう。 この大地も、この森も。 きっとその頃と何も変わらない。 旧式の銃を持ちながら歩いていると、今がいつの時代か忘れてしまいそうだ。 それからしばらく行くと、空気に……何とも言えない違和感が混じった。 野生動物のように五感を働かせている自分に少し酔いながら 目を閉じて立ち止まる。 耳を澄ませていると。 どこからか動物の鳴き声のような……嗚咽のようなものが聞こえた。 「?」 手を耳に当てるという原始的な動作で、あちらこちらに顔を向けると どうやら……高台の下の、捕虜の入っている電磁ジェイルから、か? あそこにはSIVも居る。 関わらない方が良いかも知れない。 そう思ったが、好奇心には逆らえなかった。 夜のせいで、月のせいで。 根拠のない万能感に捕らわれているようだ。 僕はLのレーザーライフルを構えて、暗視スコープを覗いた。 すると、ジェイルの中で何かがもぞもぞと動いている。 ……どうやら、二人の人間だ。 誰かが、縛られて倒れている。 それに跨がった男が、怒った顔で激しく腰を動かしている。 嗚咽は、その倒れている方の男からのようだった……。 また、 震えるかと思った。 まるで過去の自分を見るようだから。 だが僕は……自分でも不思議な程、落ち着いていた。 スコープから目を離して掌を見ても、震えていない。 そのまま冷静な頭で、レーザーライフルの出力を最大にする。 Lがよく目の前でやっていたから、使い方はよく分かっている。 暗視スコープの倍率を上げると、男の……SIVの頭が目の前一杯に広がった。 息を大きく吸い、吐き気を堪える。 引き金に指を掛ける。 旧式なスコープは対象を自動追尾してくれないので、度々視界から消えたが。 やがて赤いレーザーポインタに気づいたSIVが不審そうに顔を上げ あちらこちらを見回し始めた。 ……今時、レーザーライフルって。 その時ふと、馬鹿らしい気分になった。 玩具だろう、これ。 本当に殺害能力を持った銃器なんて、この世に存在するのか。 引き金を引けば死ぬ……か。 くだらない。 銃口を下ろし掛けた正にその時。 スコープの中のSIVが偶然こちらを向いた。 目が合った、気がした。 撃とう、とは思わなかった。 撃つのをやめよう、とも思わなかった。 ただ僕は、引き金を引いていた。
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