戦場の記憶 3
戦場の記憶 3








翌日は、Lが冷却フィルターで隠れた連合国の一小隊を肉眼で発見し、
捕虜にした。

この戦争では、兵は敵に見つかった時点で終わりだ。
モバイルを向けられたら、もう逃れる術が無い。

と同時に、発見した方も自らの座標を知られないように気をつけながら、
相手に通信しなければならない、というプレッシャーがある。

勿論、見つかっても操られないように常に通信を切っておく、という
選択肢もあるが、その場合はいきなり脳を焼かれて一小隊全滅、
という事になりかねない。


「L、大手柄だな」

「しかし簡単に投降しましたね。
 結局、国の為に戦っている人間なんて、いないんですね」

「そんな化石みたいな奴、今時いないだろ?どうせ傭兵だし」


そんな会話をしながら、捕虜のモバイルの没収に向かう。
電磁ジェイルが見える場所に来ると、捕虜の一人が
突然僕に声を掛けて来た。


「おい、おまえ、見た顔だな?」


こちらも聞き覚えのある声に……足が、止まる。
Lが隣から、不審な顔で覗き込んで来た。


「R-400だろ?俺だよ、SIV25!シブタク!」


他の捕虜も興味を惹かれたようにSIVに話し掛ける。


「何だ、知り合いか?」

「ああ、昔傭兵部隊で同じ隊だった。
 今も良い男だが、当時はまだガキでとびきりきれいな顔でな」

「……」


身体が、震えた。
顔から血の気が引く。
自分のモバイルを落とさないように、意識して指に力を入れるのが精一杯だった。


「俺が初めてだったんだよなぁ?あの時は悪かったな。
 でも、素直に言う事聞かないおまえも悪いんだぜ?」


会話に気づいた、僕と同じ部隊の男達もこちらを見てニヤニヤとする。


「で、具合はどうだったんだ?」

「最初は喚いてどうしようもなかったが、二巡目はもう緩んで、
 でも入れると勝手に締め付けるんだ。堪らなかったぜ」

「それは一度、お願いしてえなぁ」


目の前が、暗くなる。
自由な筈の体中が、押さえつけられているかのように痛んだ。

このまま、膝を突いてしまう……そう思った時。
節くれ立った力強い指が、僕の二の腕を掴んで支えてくれた。


「……」


今までおしゃべりだった男の沈黙に、目を開けると
Lのレーザーライフルの銃口がSIVに向いていた。


「な、何だよ。俺の脳を焼くのか?」

「……」

「それ、まさか本物じゃねえだろ?」

「……」


本物の銃を見た事がなくとも、古い映画や時代物の3Dで
銃の恐ろしさは知っている。
形だけだと思っていても、銃口を向けられれば身が竦むだろう。

それに、ここは戦場だ。
加えてLの目は、何をしでかすか分からない狂気を孕んでいるように
見えた。


「わ、悪かったよ」

「……」

「分かったから、その銃を下ろしてくれ!」


それで、Lは漸く銃口を下ろす。
男が本気で反省しているとも思えないが、ここが落とし所だと思ったのだろう。

それから僕たちは捕虜から離れ、仕事もせずに来た道を戻ったが、
何も言われなかった。





「……戦場での嫌がらせやレイプって、なかなか立件出来ないんですよね」


野営に使っている洞窟に戻ると、Lがぽつりと言った。


「仕方ないよ。任務が終わるまで訴えられないから証拠も残りにくいし」

「……」

「僕たち、今頃何か噂されてるかもな。
 あの二人はデキてる、とか」


雰囲気を変えるために、努めて明るい声で言ったが
Lは沈んだ声のまま続けた。


「憎くないですか?」

「え?」

「さっきの男。その……推察出来る範囲でも、彼が主犯で
 何人かに輪姦されたんですよね?」

「……」

「人によっては、グリーン・ラボに送られるより辛いでしょう。
 憎くない筈がないと思うのですが」


また手が、震えてくる。
乗り越えたつもりでも、忘れた振りをしていても、
あの男に少し似た男を見ただけで、血の気が引くのだ。今でも。


「……すみません。辛い事を思い出させてしまいました……」

「いや……大丈夫だ」


そうだ。
克服していようがいまいが、今は何でもない顔をするしかない。
でなければ事態は余計に悪化する。
何年かの傭兵生活で、僕もその程度は身に染みている。


「ライトくん……」


その時Lが、突然僕の肩を抱き寄せた。


「何するんだ、L」

「私も、怖いですか?」

「?!」


意味が分からなくて、止まってしまう。
もし怖くないと言えば、Lは僕を抱くつもりなのだろうか。
いや、これまでそういった気配はなかった。
それでもL程賢ければ、劣情を完全に隠し通す事も可能か……。


「……あいつみたいなマッチョじゃないから、さほどでもないけれど」

「……」

「でも、今は」

「……」


Lは、静かに離れた。


「すみません。人は、人の体温で落ち着くと聞いた事があって」

「なんだ……Lってやっぱり古くさいよな。考え方が」

「はい」


Lが笑ってくれたので、僕も笑う。
Lが僕の身体をどうにかしようと考えていた訳ではない事が分かり、
ホッとした。






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