バトル・ロワイヤル 13

バトル・ロワイヤル 13










それにしても、首輪が無くなると随分軽い。
リュックを下ろした時よりも身が軽くなった気がした。


「後は待ったなしだな。
 兵士は残り三人でいいかな」

「恐らく。
 もしかしたらモニタで話していた人物もこの現場にいるかも知れませんが、私の見込み通りなら、戦闘力は皆無と言って良いです」


玄関に近付くと、辺りは肉片と血潮で真っ赤に染まっていた。
鉄臭い血の臭いの中、爆死した兵士からそれぞれ銃を奪う。
そしてまた顔を見合わせ、頷き合ってそろそろと校内の廊下を進んだ。


「どの部屋だと思いますか?」

「職員室」

「ですね」


敵にはもう我々の動きは見えない。
開きっぱなしの職員室の戸の向こう側には、確かに人の気配があった。
廊下の端から、戸の反対側に素早く移動する。

夜神がゴト、と物音を立てると、職員室の中から迷彩が滑るように出て来て、ライフルで正確に彼の額を狙った。
夜神は、迷彩の顔を見ながら武器を下ろし、ゆっくりと両手を上げる。

それを見ている迷彩の。
後ろから首に腕を回して頸椎にサバイバルナイフを突き立てた。

迷彩は呻き声を上げて振り向こうとしたので、血飛沫が掛からないよう身体を捻りながらそっと廊下に倒す。
ここまで三秒。
銃を拾った夜神と私は、また無言で頷き合って銃を構えて職員室に飛び込んだ。



中はやはり、廃校の一室とは思えない程のコンピュータで埋め尽くされている。
束ねられ、蛇のようにのたくったコードと沢山のモニタ。

その真ん中には、プラチナブロンドに白いパジャマの小柄な人間が、向こうを向いてぺたりと座り込んでいた。

隣には迷彩が一人だけ立っていたが、銃口は下を向いている。


「……やはり、あなたでしたか。ニア」


人物は、髪を指にくるくると巻き付けながらゆっくりとこちらを向いた。


「正直……つい先程まで反撃されて逆転されるなんて思っても見ませんでした」

「我々を、舐めすぎましたね」

「『我々』とは、あなたと、キラですか」

「はい」


そこで初めて、迷彩が逆上したように銃口を上げ、口を開く。


「なんで!キラだと分かってる奴と手を組めるんだ!」

「あなたは、メロですね?」


迷彩はガスマスクをかなぐり捨てた。
記憶より、精悍になった金髪の少年が現れる。


「答えとしては、あなた方が『L』を殺そうとした動機と同じだと思います」

「……!」

「『倫理観より能力のある者が生き残る』。
 そんな世界に連れて来たのはあなた達でしょう?」


夜神はメロに狙われてもぶれず、ニアに銃口を向け続けている。
私は夜神をかばうように、メロの銃口の前に立った。


「そんな事より、残りの一人……いや、二人を呼んで下さい。
 校長室にでもいるんでしょう?」


その時、職員室と続き部屋になっている校長室の戸が開いた。


「聞こえているよ。L」




出てきた人物を見て、隣で夜神が仰け反っている気配がする。

無人島に居るとは思えない程、きっちりとアイロンの当たったシャツとジャケットにいつもの蝶ネクタイ。

私のビルに居た頃と寸分違わぬ、ワタリだった。

そしてその後から、背の高い……黒髪が。
ガスマスクは着けていない。
迷彩服を着ていてもどこか洒脱な印象の男が出て来る。


「月くん。紹介しておきましょう。
 もう一人のLです」

「もう一人の……L?」

「はい。キラ事件には殆ど噛んでいないので、先代のと言っても良いですが」


男は薄笑いを浮かべ、「酷いな」と呟く。


「それにしても、驚いた。おまえが驚いていない事に」

「馬鹿にして貰っては困ります」

「いつから、我々が仕掛け人だと気付いていた?」

「最初にニアが喋った時ですね」

「それはまた」


彼は心底面白そうに軽く体を折って、クックッと笑った。


「ワタリがこちら側だと気付いたのは?」

「それは今朝です。
 迂闊にも、月くんのリュックにM61と花束が入っていたと聞いたのが先程なので」

「ほう。それでバレたか」

「はい。松田さんも、ウエディは毒薬を持っていたと言っていましたし。
 あちらには、アクセサリーでも付けておいたんですか?」

「イブニングドレスだよ」


今度こそ男は声を出して快活に笑った。
訳が分からない、という顔をしている夜神に、説明する。

「あなたが取ったM61エスコートは、ご婦人の護身用という色の強い拳銃です」

「だろうね」

「加えて、花束も入っていたという事は、それは女性が選ぶ事を期待して用意された物だと思いました」

「……いやいやいや。何の冗談?
 ほぼ死ぬ、と言うか自分が殺そうとしているも同然の相手だろ?」


さすがの夜神も、全力で突っ込んで来た。
当然の反応だ。


「そうなんですけどね」

「それに全く役に立たないし、それ以前に五分の一の確率じゃないか!」

「はい。だとしてもそんな事をする、巫山戯た人間はこの人しかいません。
 ニアやメロには考え付かない遊びです」

「……遊びって」

「で、この人が居るという事は、ワタリも残念ながらそちら側の人間だと考えざるを得ません」

「……」


ワタリがエレガントに帽子を取って一礼し、夜神は呆れたように先代Lに目を遣った。


「ついでに言うと、全ての参加者に、それぞれ相応しい武器が用意してあったのではありませんか?」


男は満足そうにパン、パン、と手を叩く。


「夜神くんの拳銃は恐らく本来ウエディ向けだったのでしょう。
 ああ見えて彼女は狙撃の腕も確かですから。
 そして、ウエディが引いてしまった毒薬は、弥」

「その通り!女性には、特に彼女のようなチャーミングな女性には毒薬がよく似合う。
 勿論自殺にも使いやすいしね。
 最初に殺してしまったのは残念だった」

「その時にゲームマスターはニアだけではないと確信しました」


ニアが、くるくると髪を巻いていた指を止める。


「あの時兵士は、ニアの指示を待たずに弥を殺した。
 メロですよね?」

「……従わなければ脅しに一人二人殺せって聞いてたしな」

「だとしても人の顔色も伺わずに発砲するのですから、その前に発砲したLも含めて、ニアと同位かそれ以上の人間が兵士役を演じているのだと分かりました」

「さすがだね、L」


まるで子ども扱いだ。
自分の腹の中に、苛立ちが溜まっていくのが感じられた。


「その割に、玄関やこの部屋の入り口の兵士達を簡単に殺してくれたけど」

「正直あなた方でも構わないと思っていました。
 が、ニアの側にいるでしょうから違うだろうとも。
 彼らは傭兵でしょう?」

「ああ。その通り」

「それで。男性陣には思っていた武器は当たりましたか?
 あなたの事だ、リュックか武器にも発信器を付けていたんでしょう?」

「リヴォルバーはマツダサンが好きだった銃だからね。
 最終的に彼の元に行って良かった」


まるで、本当に松田の事を思っていたかのように目を細める。


「絶対に人を殺せないであろうヤガミ局長には、彼の為に用意したスタンガンと捕縛用の縄が行ったが……。
 後は全部外れたな」

「参考までに私には何を用意してくれたのか聞いて良いですか」

「ボーガンだよ。おまえは蠍座だろう?」

「他人の個人情報を簡単に漏らさないで下さい」

「そしてヤガミライトくんには、おまえのサバイバルナイフと救急セット。
 現実世界では遠隔で沢山殺して来たからね。
 今回は逆に、直接手で殺すか人助けをして貰おうと思った」


夜神は口を開いて何か反論しようとしたようだが、馬鹿馬鹿しくなったのか、結局何も言わなかった。






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