バトル・ロワイヤル 14

バトル・ロワイヤル 14










「全く。何故このタイミングで、こんな事をしたんですか?
 キラ捜査が大きく進展しようとしていた今」

「でもそのお陰で、一足跳びに本物のキラに辿り着けただろう?」

「副産物です。質問に答えて下さい」

「だって、今月はおまえの誕生日じゃないか」

「……は?」


想像だにしなかった単語に、意表を突かれてつい間抜けな声が出る。


「本当は誕生日当日にしようと思ったが、事件が急展開しそうになっていたからこそ、早めに開催したんだ」

「……よく意味が分かりませんが……。
 言葉通りに受け取ると、これは巨大な私の誕生日パーティだったと?」

「その通り!」


私は思わず、こめかみを強く押さえた。


「私が死ぬ可能性も十分にあったのに?」

「それも含めて、だよ。
 この程度の窮地から逃れられないようなら、一つ年を取る前に『L』をリニューアルしてやるのも、情けという物だろう」


今度は私が反論する前に、夜神が口を開いた。


「あなたは……、狂っている!
 何の罪もない、父さんや松田さんや、相沢さん、模木さん……」

「確かに狂っているかも知れないが君に言われたくはない。
 FBIの面々にも、罪は無かった」

「それは!キラを、守るために……」

「他に方法はあった筈だ。
 自分の身を守るためなら殺して良くて、誕生日を祝うために殺してはいけない、というのは君の価値観だよ」

「何を言って……!」

「月くん」


夜神は、苛立ちをぶつけるような顔で私を見つめた。


「無駄です」

「……」


そう。
価値観の立脚する場所が全く違う以上、どこまで行っても平行線だ。
ここが民主主義の成立する場所ならともかく、今は多数決でも勝てないだろう。
『L』は、それだけの影響力をメロやニアに対して持っている。

ただ。


「ワタリ」

「はい」

「あなたには、失望しました。とても残念です」

「L。……私は、私情という物を挟みません。
 あなたも良く知っている筈です」

「そうでしたね」


そう。
確かに、一般の倫理観からは大きく外れた私の捜査にも、彼は快く付き合ってくれた。
その私が今更文句を言うのもおかしな話か……。


「分かりました。それで?私は今回の試験に合格ですか?」

「1st of 1stだよ」

「そうですか。ならば誕生日プレゼントをねだっても?」

「勿論」

「「L!」」


メロとニアが青ざめて叫ぶ。
確かに、私が彼ら三人の命をねだれば「L」は事も無げに頷いてメロとニアを殺した後、自ら命を絶つだろう。
そんな男だ。

だがそんな物は要らない。


「では、キラを貰います」


目の前の「L」と、ワタリ以外の全員がひゅっ、と音を立てて息を呑んだ。


「本気ですか、L」

「今更、男に目覚めて色に溺れたのか」


金髪と銀髪の同時発言に、私は思わず笑ってしまう。


「ああ、昨夜のアレ、やっぱり聞いてたんですね?
 お行儀が悪いですよ」

「……」

「冗談です。あれはあなた方を騙す為の芝居です。
 盗聴器が付いているのは早い段階で気付いてましたし」


メロとニアが、本当かと問うように夜神を見つめた。
夜神は小さく頷く。


「少なくとも現在は、彼と私の間には何もありません。
 ただ」

「ただ?」

「私に協力すれば、逮捕しないと約束してしまったので」

「ふ、巫山戯るな!」

「巫山戯てなんかいません。
 信用は出来ないけれど信頼は出来る。
 私にとって彼はそういう存在だと、今回分かりました」

「……」

「だから私も彼に応えたいんです。
 勿論、私が責任を持ってキラは止めさせますし、一生監視下に置きます」


夜神はまた物言いたげに息を吸ったが、やはり諦めて唇を引き結んだ。
代わりに、『L』が口を開く。


「良いだろう」

「「L!」」


再び、メロとニアの声が重なる。


「誕生日プレゼントにしては少々贅沢品だが、おまえが飼い慣らせるというのなら」

「大丈夫です」

「貸しは大きいぞ?
 これからめい一杯働いて貰うからな」

「あなたに言われるような事ではありません」


その時、ニアが思い出したように時計を見上げた。


「後十五秒で、午前九時です」

「分かった。放送を頼む」


ニアはPCに向き直り、マイクのスイッチを入れる。
そして目の前のキーボードで聞き慣れた「ドミソド」を生で演奏すると、マイクに顔を近づけた。


「皆さん、おはようございます。
 午前九時の放送です。
 昨夜六時から現在までの死者は、松田さん。一名です。
 残り五名となりましたが、当方の都合で以上をもってゲームを終了とします。
 ネックバンドを外しますので、スタート地点の校舎に集まって下さい。

 皆さんは、勝者です。おめでとうございます。
 お疲れさまでした。

 繰り返します。
 ネックバンドを外しますので、スタート地点の校舎に集まって下さい」


こうして私達の、長い長いパーティは終わった。





いつの間に調達したのか、彼らとアイバー、ウエディは軍用の移送ヘリで帰るとの事だった。
夜神と私は断って、渡し船を使うことにする。
港で簡単ではあるが食事を摂ると、生き返った。


夜神総一郎以外の七体の遺体は、この島に埋葬して行くという。
恐らく行方不明扱いで終わって行くのだろう。
夜神は遺体は遺族に返すべきだと主張したが、何のために島を丸ごと買ったと思っているのだと言い返されていた。

賞金は、一億ドルを五人で山分けという事になった。
「L」は、私が死んだらその遺産が使えたのにと冗談のように言っていたが、ほぼ本気だろう。

私にとってはどうでも良い金額だが、夜神はいきなりそんな金持ちになっても戸惑うと溜め息を吐いていた。


「……で。これからどうするんだ?」


快速船の上で、遠ざかる緑の島を眺めながら夜神が口を開く。
三日間洗っていない髪が潮風になぶられて、それでもキラキラと美しく靡いていた。


「勿論、宣言通り、あなたには私の監視下にいて貰います。
 逮捕しないとは言いましたが、自由にするとも言っていません」

「詭弁だ」

「何でも良いです。
 向こうの『L』程ではありませんが、私もあまり限度を知らない方なので」


妙な真似はしないように。
とまで釘を刺さなくとも彼には伝わったのだろう。
夜神はまた息を吐くと、物憂げに甲板の手摺に肘をつく。


「まあ……仕方ないかな」

「あなたならきっと受け入れてくれると思いました」

「僕は敗者だから。
 今更どうこうは出来ない」


言葉の割りには口惜しそうでもなく、夜神は淡々と波を眺めていた。


「あなたは勝者ですよ。
 あれだけの犯罪を犯しておいて、逮捕されずに一生安泰に暮らして行けるのですから」

「安泰に、ね。取り敢えず、本土に帰ったら何をする?」

「まずはシャワーを浴びて……それから、昨夜の約束を果たしましょうか」

「昨夜の約束?」


夜神は本気で記憶を辿るような表情をした。
私は巫山戯てわざと肩を抱き、その手に自分の手を重ねる。


「言ったでしょう?彼岸で続きをすると」

「え……」


夜神は眉を上げて目を見開いた後。

困ったような、彼らしくもキラらしくもないが、何とも日本人らしい曖昧な微笑を作った。





――了――






※L、2015誕生日おめでとう!

 月がロープの先に石を括り付けて振り回してる場面は、文章で描写しづらいのですがゴーゴー/夕張みたいな感じを想像して下さい。

 あと、月がデスノートの紙片を時計にしまってもキラの記憶が消えないのは……偶々その時火口が死んだ……のかな?
 後で気付きましたごめんなさい。






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