バトル・ロワイヤル 11

バトル・ロワイヤル 11










「あのモニターの奴は、リュックに『同じ種類の武器は入っていない』と言っていた。
 だとすると、遠隔攻撃出来る武器は限られてくるだろう?
 弓矢やライフル、機関銃は大きさ的に無理、となると、」


松田はうっとりしたように、また銃に触れた。


「最強の武器は、多分これだ。
 次がボーガン、後は投げる系しか考えられなかったけど、運良く手榴弾も手に入った」


彼は、狂っている。


「月くんはロープ、てことは竜崎はナイフか何か?」

「正解です」


ポケットから突き出たナイフを抜いてぶら下げて見せると、松田は満足そうに頷いた。


「強い武器は全部独占した。今この島で最強なのは、俺だ!」


知性を失っているとしか思えない、笑顔に哀れみが湧く。
私は静かに松田に話し掛けた。


「……あなたが、本当に人を殺せるとは思いませんでした」


彼は、何故か泣きそうな顔をしながら高笑いする。


「あっはっはっは!そうか、そうなんだ?俺のイメージって」


そう。我々のイメージしていた松田は。
お人好しで警察官にしては情に脆く、ちょっと間抜けで虫も殺せないような男。
の筈だった。


「俺が警察に入ったのは、合法的に銃を持てるからだよ」

「……」

「腕には自信があるんだ。
 でも、在務中に銃を抜く機会のある警官なんて、1パーセントにも満たないって……気付いてから俺は」

「いつか銃を撃ってみたいと思っていた?」

「撃つだけなら、訓練してるよ」


……人を殺したいと、思っていた、か。

だがそれは叶わない夢だった。
一昨日までは。


「いっぺんに二人もイけるなんて、俺は運が良い」


松田は、銃を私に向けて構え、片目を瞑った。


「ごめんね?長々と話を聞かせて。
 やっぱり久しぶりに人と話せて嬉しかったみたい」

「我々を殺せばまた話せなくなりますよ。
 最後に生き残ったとして、無事この島から出して貰えると?」

「さあ。実はその辺はあまり興味ないな。
 自分の状況を誰かに自慢したかっただけだから、もう満足したし」

「……」

「でもお詫びに、楽に殺してあげるし選ばせてあげるよ。
 銃で一人づつ死にたい?
 それとも手榴弾で一緒に爆死する?」

「ちょっと相談していいですか」


私はさり気なく手を後ろに回し、ナイフで自分のリュックの底を切る。


「ダメ。っていうか何してんの」

「いえ、別れの何とやら、です。何でしたっけ?月くん」


背中が少し軽くなり、ゴト、とそれは地面に落ちるかと思ったが、音がしなかった所を見ると夜神に受け止められたようだった。


「盃」


簡潔に答えて、夜神は梅酒の瓶を松田に向かって放り投げる。


「わっ!」


ターン!という発砲音が、山に反射して空に響き渡った。
粉々に砕けた梅酒の瓶のガラス片と、茶色く変色した梅酒が松田に降り注ぐ。


「うわっ!何だこれ!」

「だから、別れの盃です」


オイルライターに火を点けると、さすがに夜神は目を閉じて顔を背けた。
ライターを投げると地面に流れた酒に燃え移り、朝の光の中では見えない程に青い炎が立ち上がる。

程なく、松田は一気に燃え上がった。


「わああああ!いてっ!痛ってえ!」


肩に掛けていたボーガンの弦が切れ、弾けて松田の顔を打つ。
頬が切れ、炎に巻かれてパニックに陥った松田は、リュックを下ろすことも思いつかず転がり回った。


「ぐわああああぁぁぁ!」


夜神はほんの僅か顔を顰めて耐えていたが、すぐに内ポケットから掌に入りそうな小さな自動拳銃を取り出した。
一瞬で狙いを定め、構えて近づきながら安全装置を外す。

ビシュッ!

というような音がして松田の首は血を噴き出した。


「ひいいっ!」


一秒。


「だで、か、たす、」


二秒。

妙に間延びして長く感じられた二秒間が過ぎた瞬間。
松田の首輪は見事に爆発して、彼の身体は一度大きく跳ねた後動きを止めた。


「……」


辺りに、ウールや髪や肉の焦げる臭いに梅酒の甘ったるい匂いが混じり、夜神は口元に手を当てる。
嘔吐するかと思ったが、冷徹にも見える横顔で、意外にも平然と『それ』を眺めていた。
キラとしてあれだけ大量に殺したという事を考えれば、この程度で動揺する筈もないか。


「私がやりたい事が、よく分かりましたね」

「『別れの』で『酒』だと分かったし。
 それ以前に松田さんが『バトル・ロワイヤル』と言った時」


私は親指を咥え、思わずニヤリと笑ってしまった。


「あなたも、『カフェ・ロワイヤル』を思い浮かべたんですね?さすがです」


コーヒーカップの上でブランデーを染み込ませた砂糖を燃やし、炎を楽しんだ後コーヒーに溶かし込むこの飲み方は、ナポレオンが好んだと伝えられている。

甘い酒を、燃やす……。
松田が「バトル・ロワイヤル」と口にした瞬間、夜神も私も同じ殺し方をシミュレートした訳だ。
自分も彼も、殊更むごい人間だとは思わない。
そんな甘い事を言っていられる状況ではない。

それよりも、今まで体感した事がなかった「以心伝心」とは、このような事かと少し感心する。
私はそれを面白いと思ったが、夜神は意にも介さない様子で役場の裏に戻って行った。






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