バトル・ロワイヤル 9

バトル・ロワイヤル 9










お陰で緊張が解け、笑いを堪えながら六カ所を繋ぐ。
弛んだ三本の銅線を粘着テープで一本にまとめる。
いよいよだ。
救急セットに入っていたハサミの刃で首輪を挟むと、夜神が切羽詰まった声で


「竜崎!」


と叫んだ。


「怖いですか?」

「ああ。怖い」

「多少声を出しても良いですよ。見つかったら見つかったまでの事です」

「そんな事言って。おまえも、凄い汗」


言われてから気付く。
鼻から、顎から、汗が滴って夜神のシャツの胸に落ちている。


「あなたもね」

「うん。緊張してる」

「止めますか?」

「ここまで来て?まさか」


ハサミを持った指に力を込めると、夜神は私の手首にすがりついた。


「竜崎……死にそう」

「それを言うなら、イキそうと言って下さい」

「ああ……そうだな」


汗はかいているのに、顔色は青白い。
まるで溶けかけた蝋人形のようだ。


「少しづついきますか?それとも、一気に?」

「……おまえの良い方で、いい」

「ならば。私ももう限界なので、」


一気に切りますと、言う前に不意打ちでブツ、と断ち切る。


「ああっ!」


……爆発は、しなかった。


また、一気に汗が噴き出す。
夜神がタイミング良く叫んでくれたので、切断音は「向こう」には聞こえなかっただろう。

夜神がまだ、息苦しそうに荒く呼吸をしている。
私は六つの結び目をラジオペンチでしっかりと捻り、手早く粘着テープで固定していった。
これで首輪の長さが延長され、いつでも外れるだろう。
念の為に夜神の首を持ち上げさせ、耳の辺りまで外してみたが、長さは十分だった。

それから私のと同じように、テープで軽く固定する。
本当は外してしまえば精神的にかなり楽になるだろうが、それは今ではない。
生体反応を見られているらしいので、首輪を外した事がバレる。


「月くん。イきましたか?」

「まさか。でももう、痛くない。だいぶ……楽になったよ」


珍しく気の抜けたように緩んだ微笑みを浮かべる夜神に……。
何の衝動か分からない。

私は、顔をぶつけるように口づけていた。

髪に指を差し込み、力の限り自分に引き寄せてその口内を貪る。

抵抗するかと思った夜神は、意外にも私の首の後ろに腕を回して積極的に舌を絡めて来た。
鼻で息をしながら、二人で聞こえよがしに濡れた音を立てながら長い口づけを交わす。

終わった時には、二人とも息切れしていた。
はあ、と同時に吐息を漏らす。


「……イきましたか」

「イッてない。おまえは」

「私もです。最初はこんなものでしょう」


私は身体を離し、音を立てないように工具を片付けた。


「今夜はこの位にしておきましょう。続きは……彼岸で」


彼岸……本土に、戻れるだろうか。
私は。
夜神は。





「おやすみ」

「おやすみなさい」


言い合った後、指でマイクを塞ぐ。
途端に夜神は、仮面を外したように冷静な顔になった。


「……さて。色々話し合うべき事はありますね」

「だな」

「過去の話と未来の話、どちらを先にしましょう?」

「両方一緒に出来るプランがある」


キラに関する自白と、この状況からの離脱方法。
それが関係していると?
面白い。
黙ったまま頷くと、夜神は偽悪的に笑った。


「今更だけど、僕はキラだ」

「はい。どうやって殺したんですか?」

「その前に。二人で本土に戻れたら、おまえは僕を逮捕するか?」

「すると言ったら?」

「このままサヨナラだ。今夜から別行動しよう」

「では。しないと言ったら?」


夜神は少し腕時計を触って、考え考え話す。


「僕としては、その方が有り難い。
 殺人方法も聞かず、逮捕もしないと言ってくれれば……」


それから真っ直ぐな目で、私の目を覗き込んだ。


「これ以上犠牲者を出さず、この島から脱出出来る」

「そうですか」


こんな極限状態でも、それを利用しようとするとは……なんという男だ。
半ば呆れ、半ば感心してその顔を見つめ返してしまう。


「しかし殺人方法も聞かない、記憶を失ったり取り戻したりした方法も聞けない、それでは私の好奇心が治まりません」

「ならどうする」

「逮捕はしない、しかし私には全て自白する。それでどうです?」

「うーん……」


夜神はまるで普通の大学生のように、今日の昼食をどの学食で食べるか悩んでいそうな表情で首を捻った。


「保険に、おまえの本名を教えてくれたらそれでもいいよ」

「あなたは私を殺したがっていると、私は考えますので……」

「それならおまえが寝てる時に殺してる。
 おまえはキラにとって邪魔だけれど、そうでなければ特に殺したいとは思わない」

「なるほど。一応信じましょう。
 でも、私がもし偽名を教えたらどうするんですか?」

「それは、僕には分かる。だから絶対に報復する。
 多少の犠牲を払えば、今すぐにでもおまえを殺す方法はあるんだ」

「分かりました。エル・ローライトです」

「……は?」

「私の本名です」


間違いなく、本名だ。
夜神が万が一ポリグラフのような能力を身に付けていたとしても、バレる懸念はない。
ただしほぼ百パーセントの人間が、正しい綴りには辿り着けまい。

夜神は、少し苦い顔で「まあ、ギリギリ合格か」とでも言いたげに何度か小さく頷いた。


「よし。契約成立だ」

「運命共同体ですね」

「ああ。この島から脱出する方法だけれど」


マイクは塞いでいるのに、少し顔を寄せて小声になる。


「ゲームマスターは、おまえの後輩なんだな?」

「後輩達、ですね」

「顔を見た事は?」

「モニタ越しならあります」

「ではそいつらの、本名を教えてくれ」


何を言い出すんだ……。
と言いかけたが、確かにそれは一番シンプルな解決方法だろう。
だが。


「教えたら、殺しますよね」

「折角遠隔で殺す手段を持っているんだ。
 直接となったら、武装集団ごと無差別攻撃という事になるけど?」

「では、一人ではダメですか?
 死の前の行動を操って、他のメンバーに計画を中止させてから死ぬとか」

「それは」


言い澱んで何気なく腕時計に視線を送り。
夜神は気付いて「しまった」という顔をした。


「なるほど。そこまで書く程のスペースはない、という事ですね?」


思わずニヤリと笑うと、夜神は小さく舌打ちをする。
そうか……殺す手段は、紙切れに名前や状況を書き込む事で間違いない。
あんな仕掛けまで作って持ち歩いていた所を見ると、何でも良い訳ではないらしい。
という事は、特殊能力が宿っているのは夜神ではなく、あの紙の方……。

となると、レイペンバーを始めとするFBI捜査官達の死に方に合点がいく。
紙、か。






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