バトル・ロワイヤル 7

バトル・ロワイヤル 7










「他に欲しい物有りますか?」

“何とか首輪を外したい。必要そうな物はありますか”

「それは、食料があれば嬉しいけど……木の実とか。
 あ、ティッシュや布巾は欲しい。懐中電灯は無理かな」

“精密ドライバー、針、ラジオペンチ、細い銅線、無ければアルミホイルでも良い。
 出来ればカッターナイフと粘着テープも”


よくもまあ、沢山注文を出してくれた物だ。


「分かりました。
 全部は無理かも知れませんが、出来るだけ頑張ります」

「あ、勿論代用できれば何でもいいよ。トイレットペーパーとか」




リュックの中に瓶と水筒だけ入れ、まずは川に向かう。
地図は頭の中に入っていた。
水を汲んだ後、役場に併設された郵便局に向かい、中に忍び込む。
オフィスには何も残されていなかったが、物置の隅に工具箱があった。

後はカッターナイフと銅線、か。
銅線はコンセントを抜いて、中から引き出したコードを切り取って調達する。
トイレの中には古のトイレットペーパーもあったが……無いよりマシか。

すぐ近くの、特に外観が荒れた感じの民家に忍び込むと、案の定色々な家財が残されていた。

ごちゃごちゃと荒れた家の中を進み、小引き出しから錆びたカッターナイフ、べたべたした粘着テープを見つける。
懐中電灯もあったが、案の定電池が錆びていて使えない。
仕方なく数本の蝋燭と奇跡的に火が点いたオイルライター、転がっていたアルミホイルをリュックに入れる。
布巾は見つからなかったが、綿らしいシャツを持ち帰る事にした。


ワタリは……見つける事が出来なかった。
あまり動いて「ゲームの参加者」に見つかっては元も子もない。
今は一番恐ろしい夜神が監視下にあるのでマシだが。
不審な動きをすれば「ゲームマスター」が介入して来て全てが台無しになる可能性もある。

私は三時になる前に、夜神の元に戻った。


「お疲れ様。木の実は?」

“蝋燭か。使えないな。日のある内に作業する”

「下手な物を食べて下痢でもしたら命取りですよ」

“首輪の構造は分かりましたか”


夜神は、作業小屋の中にあった小さな鏡で首輪を調べていたようだ。
少し窶れて、首輪が回りやすくなっている。


「あー。腹が減ったな。頭が全然働かない」

“シリコン部分を削ってみないと分からないが。
 恐らく中に電線が通っていて、どこを切断しても電流が途切れるようになっていると思う”

“途切れたら”


手指を弾いて爆発を表すと、夜神は真剣な顔で小さく頷いた。


「まだ熱が高いようですね。寝て置いた方が良いですよ」

“今度は私がしばらく休みます。その間に作業して下さい”


夜神は肩を竦めると、ペンをくるりと回転させる。


「随分僕を、信用してくれるんだな」

“おまえが寝ている間に爆発させたらどうするつもりなんだ”

「ええ。友達ですから」

“わざとでなければ、化けて出たりしませんよ”


夜神はペンを置いて、苦笑した。


「……敵わないな。おまえには」

「はい。私は『L』ですから」


その時、既に聞き慣れた例の放送開始の合図が鳴る。
今回も死者はいなかった。
立ち入り禁止区域が広がり、海に出られる道も細くなる。


「安心したよ……おやすみ」

「はい。おやすみなさい」


布団に横たわって、目を閉じた。
夜神は、カッターとラジオペンチを取り出す。

刃物を持った敵の前で無防備な姿を曝すのはやはり恐ろしいが、虎穴に入らずんば虎児を得ずという言葉もある。
私が生きて目覚める事が出来れば。
そして首輪を外す事が出来ていれば、一気に勝機は増すだろう。




目が覚めた時、辺りは暗くなっていて蝋燭に火が灯っていた。
すぐに首元を触ったが、首輪はそのままだ。
ただし、ごわごわしていて粘着テープで止めてある部分がある。


“首輪を切って電線を延長した。テープを外せばいつでも首輪は取れる。
 細かい作業になるが構造はシンプルだ。同じ作業は出来るか”


すぐに目の前に突き付けられる紙。


「おはようございます。具合はどうですか?」

“やってみます。こう見えて手先は器用なんで”

「まだ少し熱っぽいかも」

“僕も手先は”


書きかけた夜神が、少し首を傾けた。


「どうしました?」

「うん……前も似たような事が」


言いながら、自らの腕時計に触れる。


「時計が、どうかしましたか?」

「うん……」

「ちょっとそれ、見せて貰えますか」


夜神は少し迷った後、外してこちらに渡した。


「大事な物だからな。絶対に傷をつけるなよ」

「裏蓋には既に傷がついてますけどね」


言いながら、気がつく。
この時計は……おかしい。
普通は必ずある筈の、社名や製造番号が、ない。
裏蓋にはペンチで掴んだような傷……それに厚みが。

以前監禁した時は、夜神局長自ら贈った物だと言うので尊重してあまり調べなかった。
迂闊な事をしたものだ。


「傷?そんな筈はない」

「ああ、本当ですね。気のせいでした」


言いながら返し、


“その加工、自分でしたんですか?”


メモを書きながら裏蓋を指す。
盗聴を警戒したのは本能的な勘だった。

この時計には、何か秘密がある。
もしかしたら、この馬鹿馬鹿しいゲームをひっくり返せる程の。


「どうだろう……」


夜神は青ざめていた。
腕時計を手に持ったまま、手首にも付けず弄んでいる。
何かを……思い出した?

それから、おもむろに竜頭を摘み、深呼吸をしてから四度引いた。






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