武士道ロマンス 5 「……まだ決着は着かないんですか?」 上半身裸でベッドに転がったLが、足をばたばたさせながらぼやく。 「ああ。今長官が説得してるみたいだけど」 「ああいうのは時間を切るのがセオリーですが、 犯人は知らないんでしょうか」 「食料も沢山持ち込んでいるんだろうね。 長期戦が困るのは、警察側も同じだ」 「そうですね。そう思うとなかなか良い場所に目を付けたと 言って良いかも知れません」 結局窓に押しつけられたまま青い空と国会議事堂の屋根を眺めながら、 イくまで責められた。 ガラスにべったりと散った自分の精液を、情けない思いで拭いて 振り向くと既にベッドで寝転がったLが、手招きをしていて。 気が済むまで相手をしてシャワーを浴びたら、 既に正午を回っていた、という訳だ。 「それにしても要求が通ったとして、どうやって逃げる つもりなんだろう?」 「犯人はカルトですよね?多分、逃げるつもりはないですね」 なるほど。 自爆テロに近い物か。 「死刑囚の解放も要求しているんでしたね?」 「ああ」 「そう言えばキラは何故、その死刑囚を殺していないのでしょう」 ちっ。 Lはまだ、キラが重犯罪者を手当たり次第に殺していると 思っているのか。 「多分、彼が起こした事件が事件だから、キラが手を下さなくても かなり早い段階で死刑になると予測しているんだと思う」 「出来るだけ手は汚したくない、と?」 「そりゃ、普通に法で裁かれるのなら、」 その時、インタホンが鳴った。 「……その方が良いじゃないか。ちょっとそこで待ってろ。はい」 『警視庁警備部第一機動隊の松本です。 ご協力を仰ぎたい件が』 「ドアを開けますのでお待ち下さい」 「夜神くん!」 僕は無視してドアに向かう。 何故Lが叫んだのか、理解した時には。 僕の額には自動拳銃の銃口が突きつけられていた。 「……どちらがLだ」 アサルトスーツを着、ヘルメットを付けた男は、後ろ手にドアを閉めて 部屋の中に侵入して来た。 ベッドの上を見ると、LはちゃっかりTシャツを着ている。 「彼がLです」 って何を言い出すんだ! 「いや、彼がLだ」 指さし合う僕たちを見て男は迷うように銃口を一瞬Lに向けたが、 すぐに僕に戻した。 「ふざけるな。正直に言わないと殺すぞ」 「だから彼だ」 「なら私がLで良いですよ」 「じゃあ僕だ」 「ええ。彼が本物のLです」 何なんだ! と思ったが、男が「L」に用事があるのなら、こうして混乱させて 時間稼ぎをするのも有効かも知れない。 「……と言いたい所ですが、今更そう言っても信じられませんよね?」 「……」 「私達がどう言おうが、既にあなたに本物のLを見分ける術はない」 「頭脳を試して貰っても良いが、『あちらのL』も僕に劣らない 知識と思考力の持ち主だぞ?」 「……」 僕たちが代わる代わる言うと、男は苛々したように右に歩き、 左に戻った。 僕たちの言う通りだと分かったのだろう。 「まず、Lに対する要求を言ってくれ」 「そうすれば何かお役に立てるかも知れません」 「……」 男が僕たちを殺す、という事は取り敢えずはないだろう。 Lを殺す目的なら、部屋に入った時迷い無く僕を撃ち殺している。 それに。 「おまえ……国会図書館に立てこもっている犯人と仲間だな?」 「……」 ……このビルがLの建てた物だと知っていたのだから この男は本当に警察庁内部の人間に間違いない。 その身分を利用して侵入する為に、敢えてここから近い 国会図書館で事件を起こした。 そこまでしてLに用があったのだ。 「そうですね。国会図書館の彼の要求は死刑囚の解放。 死刑囚が解放された後、一番に恐れるのはキラ。 そのキラに最も近いのは……この私、Lです」 「そうでなくともキラとLが同一人物だという説は警察の中でも根強い。 僕がキラだったらこのまま殺せば良し、キラを追っているだけなら 掴んでいるキラの情報を聞き出すつもりだな?」 二人して畳みかけると男はぶるぶると震え始めた。 自分で言うつもりだった計画を、心を読まれたように 相手の口から言われるのは堪えるのだろう。 「丁度良い機会ですから聞いてみましょう。 どっちが本物のLに見えます? キラ兼任だとしたら、どっちがキラに見えます?」 Lがふざけた事を言いながらベッドから降りてぺたぺたと歩き、 僕の隣に並んだ瞬間、男が構えていた銃をLに突きつけた。 「……私の方がキラに見えるって事ですかね……ショックです」 Lは男が撃つ筈が無いと。 これから口八丁で挽回出来ると思っていたかも知れないが。 僕の位置からは、引き金に掛かった指に力が入るのが、見えた。 Lは、涼しい顔をしている。 おまえは知らないかも知れないが。 人は、常に理性的に、理論で動いている訳じゃ無いんだ。 自分の身が破滅すると分かっていても、 引き金を引く事もあるんだ。 「竜崎!」 何も考えていなかった。 何を考える暇も無く、ただ僕はLを突き飛ばしていた。 慣性の法則によって、僕の身体はLと入れ替わるように その場に留まる。 よくドラマなどで、庇った方が銃弾に斃れる、という描写を見て 馬鹿馬鹿しいと思っていたが。 自分も当たらないように突き飛ばせよ、と思っていたが。 ドンッ! 見事に僕の左半身は熱くなり、感覚を失った。 ……こんなにお約束通りになるのなら、曰わくのあるペンダントでも つけておけば良かったな。 あるいは、親友の形見の手帳でも胸ポケットに入れておくとか……。 などと下らない思考が最期になるのかと思いながら、 僕の意識は遠ざかった。
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