武士道ロマンス 4 結局Lは、難攻不落の城にアサルトスーツの群れの進入を許した。 気に入りの椅子を寝室に運ばせ、その上で丸まって爪を噛む、 その不機嫌な顔は見物だ。 「……で。何故あなたが私の護衛なんですか」 「ワタリさんを狙撃部隊に、と言ったのはおまえだろ?」 「それはSATが入って来ない場合です」 そしてワタリは、狙撃犯と一緒に国会図書館を狙い、 父や捜査本部の人達は一時キラ捜査を忘れて監視や連絡に回り、 部外者であるLと僕だけが最上階のLの部屋に閉じこもっている、という訳だ。 「全く。キラが私の護衛だなんて、とんだ茶番です」 「だから僕はキラじゃないし、キラだとしたら、 今は余計に殺せないじゃないか」 「その辺は信用してますから、この状況な訳ですが」 Lは苛々したようにフォークをショートケーキに突き刺し続け 最終的にはペースト状にして、一口も食べないままにゴミに変えた。 僕は相手をするのも鬱陶しくなって全面ガラスの窓に向かう。 窓からは道路越しに国会図書館の屋根がよく見え、 出入り口付近にはポリカーボネートの盾を持った機動隊が列を成していた。 よく見ればその後ろに、銀色のジェラルミン盾を持った警官隊も 遠巻きに集まっている。 「……どうですか」 「ああ。下は結構な騒ぎだな。 父から聞いた話では、犯人は国会図書館と議事堂に複数個の 爆弾を仕掛けたと言っているらしい。 だが、セキュリティシステムを考えると議事堂の方はフェイクだな」 「でしょうね。要求は?」 「法改正と、まあ、ある死刑囚の釈放」 「人質は?」 「取ってないみたいだ」 「馬鹿な犯人ですね」 「どうだろう。意外と頭が回るのかも?」 「失敗に備えた上で犯罪を犯すなんて、犯罪者の風上にも置けません。 やっぱり馬鹿です」 「人の命」が関わらなければ、意外と緩いのが日本の法律だ。 失敗して捕まった場合も、これだけ世間を騒がせた割には 驚くほど低い量刑になるだろう。 「でも日本の文化の一部を消滅させようと言うんだから 警察も真剣に対応せざるを得ない。 やはりなかなか強者だと思うよ」 「国会図書館本館と言うくらいなのですから、全ての保有書籍のデータは 電子化して別の場所に保存してあるんですよね?」 「いや……それがそうでもない」 「マジですか」 Lは呆れたように言った後、真顔に戻ってぼそりと口を開いた。 「……もしキラなら、この犯人、どうするでしょうね?」 「犯人の名前が分かっていないから無理だろう」 「という事は、夜神くんはキラが、犯人の名前を知ったら書くと?」 そう言われてみれば、確かに。 キラが裁いてきたのは、基本殺人以上の罪を犯した者だ。 でなければ、人の命を危うくした者、誰かを自殺に追いやった詐欺など。 国会図書館が爆発して収蔵図書が焼失したら、悲しむ人は沢山いるだろうが 死ぬほど、となるとどうだろう。 そういう意味では、今回の犯人はキラの裁きの対象外だ。 自分でも気づかなかったが、キラの裁きの基準は、意外と法律に則っている。 「分からないよ。キラの気持ちなんか」 「キラの裁きの基準は、やはり人死にが出たかどうか、でした。 この状況なら、一人でも人を殺してくれないかなんて 願っているかも知れませんね」 「不謹慎な事を言うな」 心の内を読まれたようで、思わず不機嫌に吐き捨ててしまった。 そう。 確かに、人質でも取られていたら……犯人の名前が判明し、 報道された時点でデスノートに名前を書くだろう。 いや、この状況では今は無理だが。 窓から外を見下ろしながらそんな事を考えていると。 不意に後ろから腰を抱かれた。 ……だから靴を履かない奴は嫌なんだ。 足音がしないから。 「何だよ」 「する事もありませんし。セックスでもしますか」 「は?」 固まっているとLの手は手早く僕のパンツのファスナーを下ろし 中に手を入れて来た。 バランスを崩しそうになって思わず目の前のガラスに手を突く。 「やめろよ、朝から」 「今日は仕事にならないんですから良いじゃありませんか」 「駄目だ。ほら、報道のヘリから見えるかも知れない」 「このビルの窓、鏡面になってるんで外からは見えませんよ」 「でも!万が一カメラに写ったりしたら」 「大丈夫です」 言いながらパンツを下着ごと太ももまで下ろした。 振り向いて殴りたくなったが、昨夜は自分から抱いてくれと 言った手前、躊躇ってしまう。 「ちょっと……」 「先だけ。ね?先だけ、いや指だけでも入れさせて下さい」 「……」 何のつもりだ……! このタイミングで、このサカリのついた獣みたいな行動。 意味がない筈がない。 一体……。 「冷たい!」 考えている間にLは僕の尻にローションを垂らし、指を入れながら べたべたした手でペニスを握ってきた。 不要になったローションの瓶が、ごと、と床に落ちる。 「今日は夜神くんにもイッて貰います」 「いや……そんなの、良いから、」 指はぬるぬると中で動き、内蔵を押していたが、 ある点に触れられた時、思わず背中を硬くしてしまった。 Lの手の中でも、大きく反応してしまう。 「ああ……ここ。気持ちいいんですね?」 「や……違う、」 「でもほら。こうやって」 中を刺激されながら、扱かれると。 「違う、って!そうやって、強くされると、苦しい、」 「……すみません」 そう言うとLは両手の力を緩めた。 ああ、少し楽だが……。 昨夜の弱々しい程に優しい愛撫を思い出すと、ゾッとする。 この状態であんな事をされたら、僕はきっと。 思わず目の前の窓を軽く殴ってしまった。 案の定、尻の中から羽で触れるように前立腺を刺激され。 やわやわと扱き続けられて、思わず腰を捻ってしまう。 気を逸らす為にもう一度国会図書館の屋根を見ようとして、 目の前のガラスが曇っている事に気づいた。 ……自分の息が、熱い。 「あ、」 「硬いですね、夜神くん」 「やめて……もうやめて、くれ」 「良いんですか?やめて」 冗談じゃない! 何故この僕が、こんな所で。 こんな男に、AVまがいの事をされているんだ。 「本当に。見られたら困るから、早く終わらせてくれ」 「……昨日も思いましたがお尻の中って熱いんですね」 無視するなよ。 人の話を聞けよ。 「女性の中も、こんなに熱いんでしょうか……」 ……って、え? 「竜崎、女性とも経験、ないの?」 「ありませんね」 「……男は?」 「勿論昨夜が初めてでした」 「え!じゃあ、その、やり方というか、」 「アダルトなヴィデオを見ました」 「……」 「AVじみた事を実践しては女性に嫌われる、という知識もありましたので 出来るだけ現実的な物を見繕って貰いました」 「誰に?」 「ワタリに」 すうっと、顔の表面が冷たくなる。 血の気が引く、とはこの事か。 「……竜崎。おまえ、怖い奴だな」 「今頃気づきました?」 まじめ腐った声で言うのに。 何だか笑えてきた。 「ご機嫌ですね。私に抱かれるのがそんなに嬉しいですか?」 「ああ……ああ、そうだな」 「ではもう入れても?」 Lはそう言って指を抜き。 もっと太く熱い物を、僕の尻の間に擦りつけた。 僕はつるつるしたガラスに爪を立て、額を押しつける。 硬質な冷たさが快く、濡れて束になった自分の髪が不快だった。
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