武士道ロマンス 1
武士道ロマンス 1








「うぐ……わああああああああ!」


記憶の、洪水。
に飲み込まれる。

そうだ、
僕は……。

隣に、視線を送らずに全神経を集中する。
その体温が感じられる程に。


「だ、大丈夫ですか?誰だってあんな化け物を見れば驚く……」


そうだ、
僕は。

……駄目だ。考えるより前に落ち着け。

とにかく僕は今、異常な動揺を見せてしまった。
こんな時、夜神月として一番不自然でない言動は。


「……こんな物に名前を書けば人が死ぬなんて、信じられるか?」


ああ、的外れだ。
ノートを手にした途端の挙動の説明がつかない。


「……えっ?し、信じがたいですし」


いや、竜崎も動揺して頭が回っていない。
僕の不自然さにも気づいていない……か?


「た、試してみるわけにも行きません……よね。
 ……そうですよね?……夜神さん」

『当たり前だ!竜崎!』

「竜崎……まずはここに名前を書かれている人達の名前と
 犠牲者の名前を照合してみるよ……」

「えっ……はい……まあ、そうですね……」


……気づいていない。
僕の様子に。
第一関門、クリアだ。


勝った……。



計画通り。





僕は、Lに僕の無実を信じさせる為に自ら記憶を失った。

と同時に、レムに僕も知らない新しいキラを用意させて
僕が監視された状態でキラの殺人を起こした。
それだけでなく、そのキラが捕まった時に、十三日のルールで
完全に僕の容疑が晴れるように仕組んだ。

我ながら用心深すぎる程だと思ったが。
今思えば、それでも危なかったな……。

まず最初の誤算は、Lがキラの記憶がない僕さえ、全く信じようとしなかった事。
僕が手錠で繋がれた状態とは言えキラ捜査に参加できたのは、
父が思いがけず捨て身で容疑を晴らしてくれたからだ。

まあ、監禁されたままでも十三日のルールがあれば釈放されただろうが……。
最悪、記憶を取り戻さないままで終わってしまう可能性もあった。

それでは、困るんだ。

記憶のない僕は、竜崎が十三日のルールを検証する事に賛成するだろう。
自分がキラでない自信があるから。

そして、十三日のルールが破れた時……自らの推理で、
自分がキラだと悟るだろう。
自分だけなら良いが、その頃にはLも僕が記憶を失ったキラだと断定している、
という最悪な状況になるわけだ。



とにかくそれは免れて、首尾良く記憶を取り戻したのだから
今後も計画通り、冷静に振る舞おう。

今は、十三日のルールを検証させない事、
Lがノートを持って雲隠れしなよう監視する事、

この二つに集中しなければ。

その上で出来るだけ早く、ミサに……あるいはレムに、Lを始末させる。
ノートが捜査本部にある状態で、かつ衆人環視の中Lに死んで貰う事が肝心だ。





「え?」

「だから……この部屋で、寝たいんだ」

「いや、もう手錠はないんですし。自由に好きな部屋で寝て良いんですよ?」

「分かってるんだけど、その、枕が変わると眠れないというか」


しまった……盲点だったな。
ミサが自由になるまでの間、二十四時間Lを監視し続ける事の難しさ。


「一応全室同じ、ワタリ基準の最高品質枕になっている筈ですが。
 何なら持って行っても良いですよ」


こうまでして僕の目を逃れたがるのは……
ノートに何かしようとしているのか、逃げようとしているとしか思えない。
考え過ぎかも知れないが、こいつ相手に用心してし過ぎるという事はない。
万が一にもLに動かれたら、僕は破滅するんだ。


「この部屋が、良いんだ」

「夜神くんは割と我が侭ですね。
 仕方ない、ここは年長者の私が譲って部屋を移りましょう」

「じゃなくて!」


ああ……駄目だ。
こいつを監視し続ける口実が思いつかない。


「……一人で、寝たくないんだ」

「はい?」

「おまえと一緒に寝る事に慣れすぎて、一人で寝たくない」

「ミサさん呼びます?」

「おまえの、隣が良いんだ!」

「……」


Lが、呆気にとられている。
確かに変だろうな。
だが、何と思われても良い。
三晩……いや、二晩同じ部屋で寝る事が出来れば。


「その、しばらくで良いから、今まで通り同じ部屋で寝て良いか?」


クソッ!自分の容疑を完全に晴らして手錠を外すのは
もっと後でも良かった……いや、無理か……。

Lは人差し指の先を唇に置いて、歯で爪をカチカチと弾いていたが
やがてニヤリと笑った。


「夜神くん……そういう趣味あったんですか?」

「……」

「男と同じ部屋で寝たいなんて、他に考えられませんけど。
 他に何か理由あります?」

「……ない」

「……」


……何と思われても、いいんだ。
あと二晩、一緒に過ごせれば。


「分かりました。服を脱いでシャワーを浴びてきて下さい」

「え……」

「そういう事ですよね?あなたの望み」

「……」

「それともシャワーを浴びず、体臭を楽しみたい方ですか?
 生憎私にはそんな趣味はありませんので、あなたは浴びて下さい。
 あなたが浴びるなと言うなら、私は浴びません」

「……」


Lが、指を咥えたままニヤニヤとしている。
もしかして……いや、もしかしなくても僕の嘘を見破って揶揄っているのか。

……いや。これは鎌を掛けているだけだ。
僕の本音を引き出そうと、敢えて乗った降りをしているだけ。
僕は出来るだけ自然に見えるよう、にっこりと笑った。


「いや、一緒に浴びよう」


それに、少しでも目を離すのは怖い。
トイレに行かれるのも不安なのに、シャワーなんか浴びたら
ワタリと脱出の細かい打ち合わせをする時間を十分に与えてしまう。


「はあ……」


僕が動揺しなかった事に、自分の策略が功を奏さなかった事に、
不満げに唇を歪めてLはシャワールームに向かいながら服を脱ぎ始めた。






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