美しい名前 6
美しい名前 6








どうやらLは、今夜は僕をとことん怒らせようとしているようだ。
僕も負けずに笑顔のまま、不意打ちで股間に手を伸ばす。
ジーンズの上から鷲掴みにすると、さすがのLがびくっ、と大きく震えた。


「……っ」


僕たちはずっと手錠で繋がれ、同じベッドに寝ていた。
だからこそ、こういった類いの悪ふざけは決してしなかった。

だからまさか、僕がこんな行動を取るとは予想もしなかったのだろう。
Lが狼狽している様子に、溜飲が少し降りる。


「悪……戯って……」

「こういう悪戯。って言ったらどうするんだ?」

「……男に二言は、ありません」

「そう」


混乱した様子ながらも、平然と答えるのにまた苛立った。
そうだ、コイツは現実から目を背け、嘘とハッタリの世界で生きているんだ。

ならば、思い知らせてやる。


「ベッドに行って」

「はい?」

「床だと痛いだろ?あと、潤滑剤はハンドクリームで良い?」

「はい……?」


竜崎はのろのろと身体を起こし、足を引きずってベッドに向かう。
突き飛ばすと、簡単に転がった。


「えっと、夜神くん。確認ですが、本当に私に悪戯……するんですか?」

「ああ」

「って、具体的に言いますと?」


僕は思わず笑いそうになる。
今のLは、子ども同然に無知で無力だと思った。


「お楽しみだよ」


そう言って、いつもそうしているようにシャツを捲り上げると、
無意識のように両手を挙げて半分自ら脱いだ。
それから、ジーンズを脱がせ、トランクスをずらす。
これからされる事を恐れず、素直に従う様は、本当に幼稚園児のようだった。


「……もしかして、せ、性交でもするつもりですか?」

「正解」

「マジ!……ですか」

「怖い?」


言いながら横たわったLの肋を撫で、乳首を指で押す。
Lはぴくり、と震えて、ひゅっと息を吸った。

……嗜虐心を、煽られる。

「世界の切り札」に、覆い被さって足を広げさせると
自分が少し硬くなったのが感じられた。


「……大学でも、そうでした」


僕の下で、ただ身体を固くしていたLがぽつりと口を開く。


「うん?」

「僅かな間でしたが、私にとって大学生活とは、
 まるで、映画の中に入り込んだようでした」

「……」

「現実感がない。
 私の人生に於いて、町並みだの自然だの他人だのというのは
 基本的にPCの向こう側にしか存在しませんでしたから」

「ああ……」


それは確かに、非現実的だな。
おまえの生活が。
男の性器を弄んでいる、僕もあまりにもシュールだけどね。


「まるで、まるで映画のセットの中にいるようで。
 今もです」

「セットの中にいるみたい?」

「はい……自分がそういう、人との濃密な付き合いをする日が
 く、来るなんて、思っても、いませんでしたから」

「うん……」

「やはり……こう、There is not sense of reality.
 Should I do even a performance?」


どうやら、見た目よりもずっと動じているようだ。


「英語になってるよ」

「……!」

「セットだと思っても良いし、映画の撮影か何かだと思ってもいい。
 でもおまえが演技する必要はないよ」

「……」


……最初は、本当に悪戯のつもりだった。
それから、抵抗出来ないのを良い事に、とことんからかってやろうと思った。

だが今の僕はまるで……幼児をレイプしようとする、変態のようだ。


「怖かったら、やめようか?」

「……怖くは、ないです。や、夜神くんですし」

「……」


最後の逃げ道を自ら断ち、肩を竦めて震えるLに。
萎えそうだと思ったが、僕は萎えなかった。


僕ともあろう者が、優しくしてやろうか、手荒に扱うか、迷う間もなく。
気がつけば「NO」と叫び続けるLに突っ込んでいて。

男の嗚咽を聞きながら腰を揺さぶっている所で我に返り、
まるで虐待をしているような後ろめたさに、苛まれた。






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