美しい名前 3 「夜神くん。こうして手錠も外した訳ですが、怖……いえ、寂しいので 今晩も一緒に寝て貰えませんか?」 捜査本部でデスノートの検証が一段落した時。 突然Lが話し掛けてきた。 「いや……男同士でそれはちょっと……」 「何故ですか?一昨夜はあんなに優しくしてくれたのに」 「ラ、ライト?」 「違うんだ父さん。竜崎が、」 「月くんは、ベッドの上で私を……」 「誤解を招く表現はやめてくれるかな竜崎!」 被疑者死亡という事態ではあるが、デスノートという証拠を押さえ、 ここ数日の爆発しそうな緊張から解放されて 捜査本部の空気はやはり少し緩んでいる。 十三日のルールのお陰で、僕とミサの疑いも完全に晴れ、 ミサは今日解放された。 昨夜は全員短時間の仮眠だけだったし、さすがにそろそろちゃんと休もう、 という雰囲気になっている。 「分かったから。 でも、僕もここで捜査を続けるんだからすぐに離れる訳じゃない。 少しづつ一人で過ごす事に慣れてくれ」 「はい……」 「な〜んだ。なんだかんだ言って竜崎、月くんに懐いてるんですねぇ!」 松田のバカ。 Lに睨まれて、慌てて口を押さえる。 「というか。私、個人的にはまだ月くんがキラだという考えを捨てきれません」 「竜崎!」 「勿論この期に及んで皆さんの同意は求めません。 証拠も無く、単なる勘ですし」 「なら、心の中で勝手に思っておけばいいだろう。 そんなに簡単に口にして良い事じゃない」 ……相沢がフォローをしてくれたが。 ミサはもうデスノートを掘り起こしている頃だろう。 Lの命は風前の灯火。 僕がGOを出せば、いつでも殺せる。 最早Lが疑っていようがいまいが、どうでも良い事だ。 「なんですけどね。 一つ賭をしてみたくて、敢えて皆さんの前で言いました」 「賭……?」 ざわりと、首の後ろの産毛が逆立つのを感じる。 コイツ、一体何を言い出すんだ……? 「月くんが本当にキラではないと、信じたいが故の賭です。 つまり、キラでなければ私の勝ちです」 「どういう事だ?」 「竜崎!」 まさか。 僕の考え通りだとするのなら、これは、止めるべきだ。 いや、絶対に止めなければ、 「馬鹿馬鹿しい、下らない事を言っていないでもう寝よう。 一緒に寝てやるから」 「いえ。その前に」 Lはくるりを椅子を回して、みんなに正対する。 嫌な予感が、爆発しそうになった。 「同じ手を何度も使うのは、本当は嫌なんですが」 「竜崎!」 「何ですか?竜崎」 Lは一瞬だけ僕に目を向ける。 目の端だけで、ニッと笑ったような気がした。 「私は、月くんだけに私の本名を伝えます」 「何だって?!」 「おい、どういう事だ!」 ……これは。 「私はLです」と名乗り出てきた時と同じ、 僕がキラであったら、逆に殺せないように牽制する為だ。 Lの本名を敢えて、キラと疑う人物に伝えるのは奇策と思える。 だが第三者の見ている前でとなるとこれは……、最大の防御だ。 「月くんがキラの記憶を取り戻していないのなら、私の名を知っても 殺す理由もないし、殺す事も出来ません。 逆にキラであったなら、何としてでも殺したいでしょう」 「竜崎……」 「ですから、もし私が近日中に死んだら、日本で唯一私の名を知る月くんを キラの自覚があるキラとして、捕縛して下さい」 「しかし……!」 バカな……無駄だ。 例え僕がLの本名を知ったとしても、デスノートがなければ…… って、いや、切れ端でも使えるのかとレムに聞いていたな……。 Lが死んだとしても、まさか本当に逮捕される事はあるまいが。 疑惑は避けられないし、この捜査本部にはとても居られないだろう。 ……それは不味い。 「やっぱりそれは、あまりにも問題が多いよ。 こんな事を言うのは何だけど、もしおまえが本当に偶然死んだりしたら? 僕は濡れ衣を被ることになるよな?」 「死にません。先日の健康診断で精査しましたし、事故には遭いたくても 遭えないよう、自縛します」 「でも」 「どうしてそんなに嫌がるんですか?やっぱりキラなんですか?」 「違うけど!おまえが死ななくても僕の容疑が晴れる訳じゃないだろ。 僕にデメリットが多すぎる。おまえの死に、僕を巻き込むな!」 「巻き込む……そうですね……。 私は、あなたと心中したいのかも知れません。 どうせ死ぬのなら、あなたを道連れにしたいのかも」 コイツ……! 僕には、新世界を創造するという使命があるんだ。 こんな所で死ねるか!
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