美しい名前 2
美しい名前 2








僕が竜崎と似ていてもいなくても、関係ない。
今すべき事は、火口を捕らえて……本物のキラの情報を引き出し、
僕がキラでない事を証明するだけだ。


いよいよ明日は、火口が我々の前に、「キラの殺人」を見せてくれる。
勿論本当に殺させる訳には行かないが。

それは一体、どういった物なのか……。
目に見えない手段であった場合、どうやって立件するか……。

ベッドで横になっても眠れずに考えていると、同じく眠れないのだろう、
背後で膝を抱えて丸まっていた竜崎が、また貧乏揺すりを始めた。

いや……この細かい振動は?


「どうした、竜崎」


驚いて振り向くと、紙のように白い顔で指を咥え、ベッドの中で膝を抱えて
がたがたと大きく震えていた。


「な、なんだか、変です」

「病気?!一体どうしたんだ?」

「いえ……いえ、何だか……先の事を考えると」

「先?」

「ひ、火口を捕らえた後の事です」

「ああ、」


唇を震わせ、瞼を痙攣させて竜崎は熱病患者のように
目だけを潤ませている。


「お、恐らく、あなたがキラかキラでないか、は、はっきりとする筈です」

「ああ……そうだろうね」

「そうなると、そうなると、いずれにせよ手錠を外す事になりますし、
 わ、私は、また一人になります」

「?」

「ベッドに入る事もないですから、捜査本部で、皆さんが寝室に下がった後も、
 一人で、一人きりで、そ、捜査する事になりますいえそれが通常の私です」

「うん……」

「そ、それが、でもそれを、想像すると、何だかとても……とても、不快です」

「不快……」

「不快……辛い?怖い?怖いに近いです、そんな状況になりたくないです。
 おかしいですよね以前通りに戻るだけなのに自分でもどうしてか、」


一層大きく震え始めた腕を、思わず掴むと少し震えが治まった。


「あ、い、今、少しだけ、マシになりました。少し怖くなくなりました」

「……」


僕は思わず大きく溜め息を吐く。
それから、竜崎の側に身体を寄せて子どもにするように抱きしめた。
そうだ、こんな時のこいつは三歳児だと思うしかない。


「あ……」


竜崎は驚いたような声を上げ、しばらく固まった後おずおずと僕の背中に腕を回す。


「あの、もっと、マシになりました。もう、そんなに不快ではありません」


こうして男を抱きしめている自分を客観視すると、また溜め息が出そうになるが
今度は心の中だけに留めた。


「あのな、竜崎。その感情の名前は『怖い』とか『不快』ではなく、『寂しい』って言うんだ」

「寂しい……?」

「三ヶ月もずっと顔を突き合わせていたんだ、それは離れれば
 少しは寂しくなるだろう。
 そのこと自体は、全然おかしくはないと思うよ」

「……」


震えの止まった竜崎は無言で、猫のようにただ身を丸めている。
僕の言葉の意味を理解しているのかどうかは全く測れない。


「だからこうして慰めるけれど、男同士で抱き合っている事は
 『通常』ではないというのは、分かってくれ」

「はぁ……」


分かっているのかいないのか、竜崎は僕の背に回した腕に力を込めた。


「僕は、キラじゃない。
 事件が片付いたら、また一緒に大学に行こう。
 テニスをしたり、またあの喫茶店に行こう」

「……ありがとうございます。あの、」

「ん?」

「もし、キラだったら?」

「……」


一瞬可愛く見えても、やはり竜崎はL、か。


「あなたがキラで、この手錠を外す羽目になったら、私、死にますよね?」

「大丈夫だ」


何が大丈夫なのか、突っ込んで来そうな相手に即答するのも、
根拠のない気休めを言うのも、愚かしい事ではあるが。

僕はキラではない。
……恐らく。

絶対にLを殺したりはしない。
レイ・ペンバーや南空ナオミに出会った記憶はあるが……きっと、偶然だ。

竜崎は何故か反論せず、「やっぱり怖いです」とただ小さく呟いた。


「すみませんが、もう少しこうして居て下さい……」

「ああ」


男友達だと思うと気持ち悪いが、竜崎なら仕方ない、と思う。
やっぱり僕は、彼をある意味「守るべき人」だと認識しているのだろう。



だが、竜崎は……Lは本当は。
「守るべき人」、などではなく……。






僕は翌日。

デスノートを手にし、火口を殺し。
キラとして、復活した。






  • 美しい名前 3

  • 戻る
  • SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送