Better half 1
Better half 1








「……It was great to see about what you have been up to.」

夜神月を見た瞬間、ニアは棒読みで「お元気そうで何よりです」と呟いた。


「まさか本当に連れてくるとは思いませんでした」


これは、私に顔を向けて、だ。

屋敷の広間に、ニアは鉄道模型を広げている。
以前見たよりも倍ほどレールもジオラマも増えている。
周囲のPCも、ノート型よりデスクトップの方が多くなっているようだ。


「やはりここに腰を落ち着ける事にしたか」


夜神の事には触れず尋ねると、


「はい」


ニアは率直な返事をした。

彼は移動が苦手だ。
余程の事がなければこのワイミーズハウスの別館から、
いや、この部屋からすら殆ど出ない。

SPK創設と共に都会に拠点を移した事もあるが、事件が収束すると共に
古巣に舞い戻って来た所を見ると、思ったほどの利点もなかったという事だろう。





数刻前。
夜神を連れて屋敷の裏門をくぐると、彼は耳聡く「子どもの声がする」と言った。

こちら側には子ども達は来られないが、顔を見せないように注意しなくては。
夜神がどこかにデスノートの切れ端を隠している可能性が完全には否定できないからだ。

私やニアなら、殺して貰っても構わないというか、どちらかが死んだ時点で
もう一人が夜神を消すことになる。
しかし子ども達の命を盾にされると、ニアはともかく私は
動きが取れなくなる自覚があった。


「竜崎の、子ども?」

「いいえ」

「養蜂場でもなさそうだな」

「自宅側で蜂を飼ってるわけないでしょう」


面白くない軽口に、笑いもせず返したが夜神は何が面白いのか
クスクスと笑う。

何の説明もせずに連れてきたが、ここが自宅だと信じたわけではないだろう。
そもそも私には自宅と言える物はない。
だがこの後、ニアに会わせたらどんな顔をするだろうか。

些か楽しみにしながら階段を上り、ニアのいるフロアの扉を開けると、
さすがの夜神も絶句していた。

ニアは表情を変えなかったが、「まさか」と言っていた所をみると
彼もそれなりに驚いているのだろう。




口を開かない夜神を入り口付近に残し、ジオラマの脇にしゃがんで見ると、
駅構内にミニチュアで殺害現場が再現されていた。


「例のDNA鑑定の結果」

「はい。鑑定以前に、二種類の血液が混ざってました」

「ほう」

「両方女性、血縁関係なし」

「どちらがロレンツァの物か特定出来なかったんだな?」

「残念ながら」


人差し指で髪をくるくると巻きながら、さして残念そうでもなく言う。
他の手がかりも掴んでいるのだろう。
まあ、この件は彼に任せておけば間違いない。


「そうか。そちらの事件の手伝いは出来ないが、
 私もしばらくこちらに滞在する」

「それでワタリが動き回っていたのですね」


視界の隅で、今まで黙って腕を組んだまま私たちを眺めていた夜神が
ぴくりと震えた。





ニアと夜神の関係は、想像したよりも面白いかも知れない。
出会った途端辛辣な応酬があるかと思ったが、実際はどちらも相手に対して
口を利かないし(ニアの最初の言を除いて)、相手について私に尋ねない。

かと言って全く無視している訳ではない。
ニアが自分が抱えている事件の捜査状況について具体的に話さないのも、
固有名詞を出すのを控えているのも、夜神を意識しての事だ。

勿論、ロジャーを敢えて「ワタリ」と呼ぶのも。

夜神は死んだ筈の、自分が殺した筈のワタリの名前につい反応したが
すぐに名というよりは役職名だと察したのだろう。
やはり口を噤んだままだ。


ニアは、あまり表に出さなかったがメロを好いていた。
滅多にない事ではあったが、院内では唯一話せる相手だったらしい。
そのメロを殺した夜神に、プラスの感情を抱いている筈はない。

夜神は夜神で、ニアが自分をあんな所に閉じこめて死なせようとした
張本人だと分かっている。

だから、最初から友好的という訳に行かない筈ではあったが。

それでもニアは、メロの事は結局はメロ自身が選んだ事だと理解しているだろう。
加えて元々人の生き死にに拘るタイプでもない。
地下牢に収容した時点で夜神はニアの手を離れ、
キラ事件は彼の中ではもう完結した筈だ。

夜神も、自業自得というものであるし、今となっては過去だ。
実際、あれほど激しく鍔迫り合いを繰り返し、殺しまでした私に対して
恬淡な態度を貫いている。
彼の聡明さを思えば、今更ニアに危害を加えようとする可能性は限りなく低い。

だから、最初は多少の蟠りを見せても、すぐにニュートラルな関係になると
踏んでいたのだ。

それなのに二人とも、相手を意識していないそぶりをしながら
警戒を怠らず、お互いの出方を窺っている。
夜神もだが、普段私でも面食らうほど感情の波を見せないニアが、
これ程毛を逆立てているのは見物だった。


ニアと近況について当たり障りの無い会話をしながらその実、
この我慢比べ、どちらが先に音を上げるかを興味深く観察していると、
先に動いたのは、テリトリー意識の強いニアだった。


「彼、クイーンズイングリッシュは話せますか?」


話の流れを無視して唐突に、ドイツ語を使って尋ねて来る。


「さあ。英語が話せるかどうかも」

「以前YB倉庫で少し話した時は、酷い米語でしたよ」

「日本の高校のヒアリング講師は、何故かアメリカ人が多い」

「遺憾です」

「ニアは、イギリス人だったのか?」

「……私は、何人でもありません」


夜神は、ニアが突然異国語を使い始めた事で自分の話題だと察したのだろう。
気付かない振りはせず、じっとこちらを見つめている。
彼の方も、しびれを切らしていたらしい。


「ところでL、……本気なのですか?」

「本気だ。あなたもそのつもりで頼む」

「私は……」

「何。まさか、能力があっても元犯罪者とは組めないと?」

「……いいえ。それで犯罪検挙率が上がるなら、異論はありません。
 ただ、基本的には私とは別行動でお願いしたい」


本当は、私とも別行動を取らせたいのだろうが。
将来どうなるかはともかくとして、当面夜神は私のサポートだ。

だが、ここで少しニアに意趣返しをしてみたくなった。
一人でアフリカくんだりまで夜神を連れ戻しに行かせてくれて。
飛行機のチケットやホテルやレンタカーの予約はロジャーにして貰ったとは言え、
それなりに大変だったのだ。






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