Born free 2
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『L。デュパンから連絡がありました』

「繋げますか?」

『いえ、メッセージだけです』

「どうぞ」

『三日後、日本のヨコハマダイコクピアYB倉庫で麻薬取引がある。
 今から飛行機に乗る。です』

「……了解」


あまりにタイミングの良い内容に、私たち三人は思わず顔を見合わせる。

デュパンとは、教授と手を組むシンジケートに潜り込ませている犬だ。
三日後と言えば一月三十一日。
それでYB倉庫……という事は、本当にパーティーがあるのか。


「YB倉庫は、以後どうなってるんだ?」

「私が、SPKメンバーに跡形もなく片付けさせました。
 半年前から日本の管理会社に任せていますが、セキュリティが
 甘いのかも知れません」


夜神が聞いてニアが答え、続けて社名を上げた。


「大手建設会社関連だけど……まあ、暴力団との癒着はあるだろうな。
 これで偶然という線が濃くなったな」

「いえ。教授が取引場所をYB倉庫へ誘導した可能性の方が高い。
 が、ひとまずこの問題は置いておきましょう」


当然本当の所有者は分からないようにしてあるだろうが。

YB倉庫が立地や管理形態から秘密取引に利用しやすいのは間違いないし、
だからこそ去年ニアもあの場所を選んだ。

教授が、YB倉庫について調べた時、その都合の良さに気付いて
日本での麻薬取引の現場に選んだ、というのもありそうな事だ。
偶然、としてもおかしくない条件は揃っている。


「では何故、あなたをそのパーティーに招待しようとしているのか、ですが」


私が絞り込みの手法でキラが日本にいると特定したのは、有名な話だ。
今も世界中の多くの人が、キラは日本人である、あったと認識している。


「教授が日本に行くならあの金髪も同行するでしょうし、
 そのついでにキラの事を調べようとするでしょうね」

「そこへわざわざ僕を名指しして呼んだということは、
 僕がキラではないかと……少なくとも日本人かと疑っているという事か?」

「日本人だというのはバレていると思います」

「まさか!僕は、」

「あなたが口を割らなくても、二の腕にははっきりとBCG予防接種痕が
 残っていますからね。
 そんなものを付けているのは日本に生まれ育った人だけです」

「そうなのか?」



Lの側近くにいた日本人……まさかキラだとは思うまいが、
キラ逮捕に深く関わった者であろうという事は容易に察しが付く。

夜神を手放した後、YB倉庫の実在とその性質を知った時、
教授と金髪は、夜神の重大性に気付いたのかも知れない。

その時視界の隅で、ニアが物言いたげな視線をよこしたのに気づいたが、
目を遣ると逸らしたので、とりあえず捨て置いた。


「まあ、メッセージを受け取ったのも解読したのも偶然ですから
 無視しても良いんですけどね」

「でも。おまえが日本警察の協力を得ていたのはすぐに分かるだろう?
 もし警視庁に乗り込んであの動画をバラ巻かれたりしたらどうするんだ」

「麻薬の売人がそんな事をするわけないじゃないですか」


言い返したが、勿論そんなことは言い切れないのは分かっている。
最終的に、日本に行くか、何とかしてあの金髪にコンタクトを取るか
どちらかはせねばならないという事も。

しかし、夜神を日本に連れて行くのは危険すぎる……。
ここに、置いていくのも。


「月くんはどうしてそんなに必死なんですか?日本に行きたいんですか?
 デスノートを隠してあるとしたら日本ですよね?」

「何を言ってるんだ!万が一動画が流出したら僕もおまえも終わるんだぞ?」

「日本ではあなたの方が土地鑑がありますから、もし逃げられたら
 追うのがやっかいなんですよ。
 その間にデスノートを取り戻されたら私はともかくニアは即死ですし。
 夜神月=キラだと知っている者を、片っ端から殺すことも可能でしょう」

「なら!また手錠で繋げよ!このまま手を拱いているなんて出来ない」

「そうですね。そうさせて頂きましょうか。それに月くん」

「何」

「実は、ニアはまだデスノートを持っているんです」


夜神が、大きく息を吸ってニアを見る。
ニアは、涼しい顔でソフトビニールの怪獣の足を自立しやすいように
調整していた。

数瞬息を止めていた夜神は、すぐに息を吐く。
そんな重要な事を今カムアウトする意味も、彼ならすぐに理解するだろう。


「……なるほど。僕がデスノートを使うなら最初にニアを殺さなければならないし、
 もしニアが死んだら即僕を殺す訳だ」

「そういう事です」

「それが本当だとしてもハッタリだとしても、無駄な事だ。
 僕はデスノートを隠してなんかいないんだから」

「主張するのは勝手ですが、私がそれを鵜呑みに出来ない事情も
 理解していただけますね?」

「という事は日本に連れて行ってくれるんだな?」

「どうしてそうなるんでしょう」

「L……quiero estar contigo.」

「……あなたという人は、……」



スペイン語をマスターした、か。
このタイミングでそんな事を。

夜神を連れていく以外、殆ど選択肢がないのは分かっていた。
その事に、彼が気付いている事も。

だから、冗談めかして同行を促されたら、断る理由もない。

仕方あるまい……。
確かに、放ってはおけない。

しかし行くなら、この機に確実に金髪を潰せる準備をしなければ。


「ではまず最優先課題は金髪の確保、死体でも可、としましょう。
 次に出来れば教授も。どちらも叶わないのなら、
 最悪彼らを庇護している犯罪組織を潰します。」

「分かった」

「分かりました」





金髪がマフィアの取引現場に呼び出したという事はやはり、人数に任せて
夜神を捕獲するつもりだろう。
かと言って、別人が来る事や、私(L)がトラップを仕掛ける事を
予想しないとも思えない。

そして私が通報する事も考え、本人たちは別の場所にいる可能性が高い筈だ。
倉庫より、その場所を特定できれば……。


「やはり日本警察に協力を要請する方がスムーズでしょうね。
 幸いコネクションもある事ですし」

「コネクションって?」

「Mr.アイザワ、今は公安の良い所にいるようですよ」

「相沢さんか……という事は、ニアも日本に行くんだろ?」

「行きませんよ!」

「だって相沢さんと繋がりがあるのはニアだけじゃないか。
 一度顔を見せているんだから、顔を合わせないのは不自然だぞ」

「きょ、協力は要請するけれどLは訪日しない、という方向で、」

「そんな無作法な。
 良いじゃないか。また添い寝して御伽噺をしてやるよ。今度は日本語で」


夜神が床にへたり込んだニアに、再び手を伸ばす。
途端にニアは、驚くべき速さでノートPCを畳んで立ち上がり、中腰のまま走って
モニタ群の前に配置したロボットだの怪獣だのの真ん中に飛び込んだ。

私たちが呆気に取られている間に、ブリキの乗り物で手早く
今自分が踏んだ足場を埋めていく。


「な……」

「これらのおもちゃは、安い物もありますが、高い物は一万五千ポンドします。
 一点しか現存しない、博物館級のフィギュアも混じっています」

「はあ?」

「総額、日本円にして……五千万円以上です。
 これらをなぎ倒して、来られるものなら来てみろ!」

「!」


よく見れば、ロボットや人形はほとんどが不自然にこちらの方を向いていた。
まるでニアを守って睨みを利かせている軍隊のようだ。
さっきから並べていたのは、この要塞を作っていたのか。


「くっ……僕が庶民だと思って……」

「出来ますか?」

「出来ない」


ニアは珍しくニヤリと笑うと漸くノートPCを広げ、狭い枠内で寝転がって
くつろいだ。


「全く。自分の部屋の中で陣を作らなくてはならないとは」

「出て来いよ」

「嫌です。日本では今、十七時くらいですね。アイザワに連絡します」


ニアはPCを操ってロジャーに、相沢さんの内線に電話するよう指示すると
悠々と夜神に貰ったチョコレートバーの金の紙を剥き始めた。


「おいニア、」

「あ、繋がったようです。黙って下さい」

『L。Mr.アイザワです』

「Mr.アイザワ。唐突で申し訳ないのですが、私が独自に半年追って来た
 犯罪グループが三日後に日本で麻薬取引をします」


パリ、とチョコレートを噛みながら言う。
その音は、相沢さんに伝わったかどうか。


「そこを押さえるのに力をお貸し頂けないでしょうか?」







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