Born free 1 「……お元気そうで、何よりです」 ニアが平坦な声で、最初に夜神をこのワイミーズハウス別館に連れてきた時と 同じセリフを言う。 相変わらず目を上げず、今日は何やらレトロなブリキのロボットや ソフトビニルの怪獣を並べていた。 「ただいま……っていうか、ニア、日本語話せるのか!」 「勉強しました」 「この数週間で?」 「まあ、元々ヒアリングはかなり出来たんですよ」 「……黙っていた訳か。人が悪いな」 以前ここに滞在した時、夜神は何となくニアに聞かせたくない会話は 日本語でしていた。 とは言え、別に本当に聞かれて困る話はないだろうから 何も言わなかっただけだが。 「あなたに言われたくないですけどね」 「そう?もしかして、僕と話す為に日本語勉強した?」 「そんな訳……!」 ニアが顔を上げた所で夜神がその手首を掴み、無理矢理立ち上がらせて 引き寄せる。 「ちょっと!止めて下さい!」 「いいじゃないか、何日も同衾したのに」 「ど……どうきん」 抱きしめて頬ずりすると、ニアはばたばたと暴れたが 体格に差がありすぎて全く抵抗になっていなかった。 「って何ですか」 「Sharing a bed. 」 「い、いくらプライバシーがなくて欲求不満だからと言って、 私を!女性の代わりにしないで下さい!」 ニアが、珍しく声を荒げる。 夜神に、マシュマロみたいで触り心地が良いと言われたのを 未だに根に持っているらしい。 そう言えば、私も夜神に似たような事を言われたな。 女性代わりというのとは、少し違うのだが。 夜神もそれを思い出したのか、少しきょとんとした後笑い出した。 「女性の……代わりかも、知れないな。 ニアの背格好は、粧裕と丁度同じくらいで、ちょっと懐かしくて。 勿論男性だから骨格は広いけど」 「妹の……代わりも、ごめんです」 「悪い。これあげるから許して」 夜神が、取り出したチョコレートバーをニアの頭に乗せる。 謝り方も、妹扱いだ。 ニアは水を掛けられた猫のような表情をしてそれを振り落とし、 両手で受けた。 「ああ……あなたでしたか。 メロのお墓の前に、チョコレート置いたの」 「もう気が付いたか」 「この屋敷では24時間あらゆる場所をカメラで監視しています。 目を離した隙にチョコレートが出現していたので何事かと思いました」 「命日に少し遅れたけど、供えておこうかと思って」 この場所に到着した時、夜神が少し待ってくれと言って裏に回ったのは、 そういう訳だったのか。 この場所から巣立つことなく亡くなった可哀相な子たちと、 巣立ってもここ以外帰る場所を作れなかった子ども達の為の墓を、 前回目ざとく見つけていたらしい。 「そういう日本的な習慣を持ち込まないで下さい。 第一、エコじゃありません」 夜神は、ニアが「エコ」という言葉を使ったのが余程面白かったのか 体をくの字に折って無言で震えていた。 「ご、ごめん。後で回収する?」 「……別に、もういいです。 あなたに供えられてメロが喜ぶとも思えませんが、」 ニアは言葉を切って手の内のチョコレートをじっと見つめた後、 その指先でそっと金色の紙に触れた。 「……ありがとうございます……。と、一応言っておきます」 「で、暗号の解読は?」 つい先日、ワタリを通してイタリアの有力者から暗号文が届いた。 ロレンツァ事件の依頼者だが、彼の元に「L」に届けるようにと 送られてきたらしい。 普通なら見もせずに破棄してしまうような代物だが、 このタイミングと、ロレンツァとの繋がりから、直感に来る物があって受け取り、 そういうのが好きなニアに、気分転換に解かせていた。 その内容について夜神に話があると連絡して来たので、こうして足を運んだのだ。 「解読という程の事はありません。ヴィジュネル暗号の応用で 時間さえ掛ければ誰にでも解けます」 「頼む」 「『TO IMITATION L WELCOME TO PARTY 310111 YB WAREHOUSE YOKOHAMA』 」 「……間違いないか?」 「ありません」 なるほど。これは、金髪から夜神宛だ。 ……一月三十一日にYB倉庫へ来い、偽L…… YB倉庫は一年前、ニアとキラ 夜神が最期を迎えた、と思われている場所だ。 しかしその事を、あの金髪が知っている筈はない。 夜神が漏らしていなければ。 「月くん」 「……」 「あなたやはり、」 「違う」 「違いません。違うならば何故YB倉庫の名前が出てきたのですか。 と言っても水掛け論になるので聞きませんが、席を外して下さい」 「待てよ!」 夜神が嘘を吐いている可能性がまだ測れないので怒りは湧かないが 念には念を入れる必要がある。 「確かに、キラは日本のYB倉庫で死んだと話した。他の与太話に混ぜて。 でもあいつは信じてなかったと思う」 「つまり、YB倉庫の名前は知っている、と。 問題はあなたが何故今までそれを黙っていたか、ですね」 「色々した嘘話の一つだし、別に良いと思ったんだ」 「偶々よりによってその一つを信じ、YB倉庫にあなたを呼び出したと?」 その時、ロジャーから通信が入った。
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