Body check 2 夜神は棚から浣腸液を取り出し、手で暖めながらトイレに座った。 流石に少し躊躇ったのか、しばしお互い動かない無言の時間があったが 壁に凭れたままずっと見ていると、結局私を睨んだまま浣腸液を使う。 ウォシュレットで不必要な程に丁寧に洗い、トイレに蓋をして水を流すと 「これで、もし僕がデスノートを尻の中に隠していたとしても流れて行ったよな?」 尖った声で、投げやりに確認してきた。 「ですね」 「僕の疑いは完全に晴れたか?」 「まあ、一応」 疑いが晴れたと言うのに、夜神は腹立たしそうに便器を蹴ると シャワーに向かった。 私が見ていても気にした様子もなく服を全て取り、体を丁寧に洗っていく。 ……いや、敢えて無視しているのか? 洗い終わった夜神は、バスタオルを使った後脱ぎ捨てた服を手に取った。 「何をしているのですか?」 「服着るんだけど」 「服を着て?」 「ニアの所に行く。そろそろおねむの時間だろう」 ニヤリと笑いながら、ニアの部屋の方角を親指で指す。 「冗談でしょう?そこまで入念に準備をしておいて」 「何が?僕はおまえに言われた通り、体の中に何も隠していない事を 証明しただけだ」 なるほど。 裸を見せびらかしたのは、わざとか。 この私に、飼い主に「おあずけ」を食らわせるつもりか? 生意気な犬だ。 「ニアを盾にするのはやめなさい」 「何。僕を抱きたいのか?エ〜ル」 揶揄うように、歌うようにLの名を呼ぶ。 そうすれば、意地でも抱きたいなんて言わない、そう計算しての事だろう。 実際、夜神に頼んでまでさせて貰う程私は飢えていない。 だが、夜神の魂胆が透けて見えているのに、それに乗る程 お人好しでもないつもりだ。 「……ええ。抱きたいですね」 さりげなく入り口ドアに立ち、手を突いて塞ぐと夜神は眉を顰めた。 「へえ。Lが、本当にゲイになった?」 「と言うよりは、前にも言いましたが女性よりは面倒くさくないので」 「でも男に欲情出来るって事には変わりないだろ?」 「あなたはダッチワイフとしても優秀です」 「……」 夜神は目を伏せて歯を食いしばりながら何か考えていたが、 やがてまた大きく息を吐くと、両手を上げた。 「分かった。受け入れる」 ぱさりと、持っていた服を床に落とす。 もう無駄な問答は繰り返さない、なかなか合理的で結構な思考回路だ。 「そうそう。受容すると、あなた自身言ってましたしね」 「ああ。快くおまえを受け入れる事が出来たら、 楽に生きられるようになるんだろうな、と自分でも思うよ」 「それが分かっていて、まだ往生際が悪いですよね?」 「……やはり、そんな自分がなかなか許せない。 おまえが僕の体に興味を持たなくなる希望を捨てきれないし」 「なるほど。 でも実際、あなたがそんなだから抱きたくなってしまうのかも知れません」 「どういう事だ?」 「あなたが自分から尻尾を振って、抱いてくれ抱いてくれと 言って来るような人だったら、興味が湧かないと思うんです」 「……」 「どうでしょう。ひとつ試してみては?」 「無理」 即答に、思わず笑ってしまいそうになる。 「人を殺した良心の呵責を、数日で乗り越えた人にでも 無理な事があるんですね。気の持ちよう一つの問題でしょうに」 つい揶揄うと、夜神はじっと私を見つめた。 この私が、内心少し居心地が悪くなってしまう程に。 「……分かった」 やがて、つい先程「無理」と吐き捨てたその口で、 スイッチが切り替わったかのように突然柔らかく微笑む。 まるで別人、などと、つい月並みなセリフを呟きたくなってしまった。 ……偶に見せる、彼のこうした切り替えの早さには本当に驚かされる。 今回ももう少し遊んでやるつもりだったのに。 夜神は先ず、自らをリラックスさせるように気だるげに緩慢な動作で 首を回した。 そしておもむろに……初めて見る目、媚の滴るような流し目を、私に寄越す。 シャワーで温まり、紅潮した唇の稜線と、淫猥な視線のバランスは 見事と言うしかない程に絶妙で。 思わず息を呑むと、猫のようにしなやかな足取りで近づいて来た。 ゆっくりと私のTシャツに触れ、肩にしな垂れ掛かり、 首筋に息を掛ける。 「抱いてくれ……L」 「はい。喜んで」 突然、頬に衝撃が走って私は床に倒れていた。 見上げると、夜神がまた打って変わって怒りに燃えた目で見下ろしている。 「話が違う」 震える声を、最後まで聞かず私も夜神の足を蹴る。 受身を取りながら倒れこんで来た夜神を、今度は力づくで押さえ込んだ。 「全く。月くんは変な所で素直というか、冗談が通じないんですね」 「冗談?」 「というか煽ってどうするんですか?」 「はぁ?!」 「あんな技持ってたんですね。男でもゾクッと来ましたよ」 「……!」 床は樹脂とは言えタイルだ。 陶の便器やバスタブもあるし、本気で喧嘩して頭を打てば 取り返しが付かない事になる可能性もある。 そんな訳でしばらく中途半端に揉み合っていたが、 先に諦めたのは、夜神だった。 争っても無駄だという事を思い出したのだろう。 抗っていた腕から、どんどん力が抜けていく。 完全にマウントポジションを取ってから、私も漸く息を吐いた。 「OK,OK.Good boy……」 思わず口の中で呟きながら、Tシャツで額の汗を拭う。 私の下で、そんな筈はないだろうが気を失ったかのように 完全に脱力した夜神。 その従順を労うか、それとももう少し揶揄うかしてやろうかと思ったが。 先程見た目つきがチラついて、私にも既に余裕がない。 結局何も声を掛けず、私は服を着たまま無言で犯した。 --了-- ※話が動かざる事山の如し。
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