Arabian Nights 6 翌朝ニアは、酷く不機嫌そうだった。 「久しぶりに一人でゆっくり寝られたと思ったら、朝には見慣れない頭が 目の前にあるんですから堪りません」 「私も前の色の方が良かったと思ってるんですけどね」 「つまり、夜神はLの許可を得ずに勝手に髪を染めたんですね?」 「はい」 「彼、意味も無く髪の色を変えるタイプではないですよね」 ニアもやはり、夜神が外出を、もしかしたら脱出を目論んでいる事に 気づいているのだろう。 「しかもLの顔に痣が出来ている。 なのにどうして、その夜神の方が機嫌が悪いんです?」 「……」 「……僕は、別に機嫌悪くないよ」 「悪いです。言葉数が50%程少ないです」 「ニアだって機嫌が悪いじゃないか」 「悪いですよ。でも私のは理由がはっきりしているので話を逸らさないで下さい」 夜神が珍しく途方に暮れたように窓の外に目をやった。 昨夜はお互いに、恥という感覚の無意味さを確認しあったばかりだが 子どもやニア相手となると、また話は別だ。 夜神とのセックスを録画して、それを消さないから夜神が腹を立てているだなんて 私の口からは言えない。 だが。 私は見てしまった。 ニアの無機質な黒い瞳に、鼠をいたぶる猫の愉悦が微かに浮かんでいるのを。 これは……この機に容赦なく夜神を追い詰めるつもりだ。 という事は、同時にこの私も。 「夜神、気になります。昨夜ソファで寝ていた時までは普通でしたよね?」 「ニア……」 「その後、Lと一緒に寝室に下がりましたよね。何かありました?」 「……」 「同じ部屋で寝たのですか?Lに痛い事でもされましたか?それとも、」 わざわざ夜神の椅子の傍に寄り、耳元に囁くように、 「気持ちイイ事?」 「……」 夜神は黙って耐えていたが、突然開き直ったかのようにニアに向き直り その手首を掴んだ。 「気持ち良い事だよ」 「……」 「これで満足か?」 ニアは、一瞬鼻白んだが、すぐに不敵に笑った。 「ならどうして機嫌が悪いんです?自分にだけはクソ甘いあなたですから、 気持ち良ければ全てよし、じゃないんですか?」 「……僕はそんなに単純な人間じゃない」 「そうですか?キラの犯罪は結局全世界に向けての公開オナ」 聞いていられなくて、思わずニアの口を塞ぐ。 大人しげなので目立たないが、彼は時々考えられない程に口が悪い。 今までは気にならなかったが、夜神には何故か聞かせたくないと思った。 「ニア」 今度は夜神が、ニアに顔を近づける。 「も、がは、放してくだ、」 「おまえが大人になったら、教えてあげるよ。僕が今何故機嫌が悪いか」 「私は!子どもじゃありません。18で既に大犯罪者を捕縛しています」 「そう。なら、昨夜の僕と、全く同じ体験をさせてやろうか?」 「……それとこれとは、」 「いいよ、今からでも。今日は警察の連絡待ちだろ?時間はある」 「ちょっ、」 手首を掴んだまま夜神が、歩き出そうとするとニアが悲鳴を上げた。 「じょ、冗談ですよね?」 「おまえ次第だよ」 「……性格が悪いです。私が謝らなければ、何をするつもりですか?」 「だから気持ち良くて機嫌が悪くなる事だって」 「ごめんなさい私が悪かったです」 ニアが袖で目元を覆いながら即謝罪の言葉を口にすると 夜神は一瞬呆気に取られた後、破顔してその体を引き寄せた。 ニアも、どうせ袖の裏側では舌を出しているのだろうが、 抱き寄せられる程度ならまだマシと思っているのだろう、我慢している。 「ニア……悪かったと思うなら、今日はデートしてよ」 「は……?」 声が出たのはニアだが、私も同じく驚いた。 「Lは僕以上に顔を曝せないから無理だけど、おまえなら大丈夫だろ? 僕もサングラスを掛けるし、おまえにも多少変装して貰って 英語で話していれば、見られても僕だとはバレないよ」 「そういう問題では、」 「監視にもなって一石二鳥だろ?」 これは私に向かって言う。 確かに、私だって日本以外では外出するし、「L」だとバレなければ 一般人に顔を曝しても問題ない訳だが。 「……あなたがニアを人質に自由とデスノートを手に入れる可能性もありますが」 「その時こそ、デスノートの切れ端に僕の名前を書けばいい」 「……」 夜神が、外の世界に出て行く。 他の国ならまだしも、日本で、というのはやはり気になる。 「おもちゃ屋にも寄るよ」 「……L。私のクレジットカードを」 だが、ニアが一緒なら、下手な事はしない、か。 諸手を挙げて歓迎はしないが、今は夜神のニアに対する「愛」を信じて、 送り出すしかない。 最悪二人ともを失うことを覚悟して、私は小さく頷いた。 --了-- ※9000打踏んでくださいました、神戸由梨さんに捧げます。 頂いたリクエスト内容は、 > 四文字熟語シリーズで録画してると言われて月が怒ってましたが、 > 横文字シリーズの月が同じ事を言われてどんな反応をするか見てみたいです。 > 録画云々で月が不機嫌になって、ニアが何故不機嫌なのか > 尋ねるけど、2人とも答えられない、というシーンを入れて ありがとうございます! 拙シリーズでリクエストいただき、ありがたくまた書きやすいと思っていたのですが 終わってみればこの長尺。 そういや、この二人はいたす事自体に前向きじゃないのでした。 する理由まで遡ったので無駄に長くなってしまった。 答えとしては「横文字シリーズの月は相当動じない」でした。 今気づきましたけど!録画してるって言ってないですね! 全く思っていなかった事を言われた瞬間の反応、という点では リクこなしてないわー。申し訳ありません。 ニアのくだりは、何となく可愛いシーンを想定されているような気もしましたが 逆襲編というか、ニアの可愛くない所が強調されてしまいました。 原作ニアの口が悪い部分はいつか書かねばと思っていたので 自分的には満足です。 神戸さん、こんなんで良かったでしょうか? 楽しいリク、ありがとうございました!
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