Arabian Nights 3
Arabian Nights 3








松田が届けに来た写真の中の、元キラ捜査班の集合写真を見て
夜神が懐かしそうな顔をしている。
表情に出さないようにしているが、私には分かる。

記念写真、などと馬鹿な事を言い出したのは、ニアではない。
松田あたりだろう。
山本の頭の程度によっては、山本かも知れないが。


キラ事件当時、私を殺したレムという死神は、ワタリを殺した事によって死んでいる。
つまり、夜神が持っていたノートに死神は憑いていない。
ニアによればリュークも、ノートを燃やした時に去って行ったらしい。

という事は、もし、夜神がノートを隠しているとしてもこの世には現在のところ
死神はいない可能性が高い、という事だ。

でなければニアを外に出したりしない。
誰であっても死神の目の取引は出来ない、と思うから
顔を曝しても危険は少ないと思ったのだ。
記念写真も特に問題はないだろう。


問題は、夜神が前回と同じく、デスノートが自分に戻ってくるよう
何らかの策を施してあるのではないか、という事だ。

今回は記憶を失っていないのだから、簡単だ。
家ではないだろうが、必ず行く場所、行っても不自然でない場所に
隠しておけば良いのだ。

その候補の一つが、夜神家の墓所……。

あるいは。


「山本という名前を聞いた時は、本当に何も思わなかったんだ。
 それほど日本には多い名前だからね」

「なら何故、写真を見ても何も言わなかったのですか?」


……自由に動かせる手駒を手に入れて、弥のように利用する……。
そこまでしなくても、ノートに触らないように持って来させる事は出来る。
ここに配達させる荷物に紛れ込ませておけば良いのだ。


「こっそり連絡を取って動くつもりだったのでは?」

「そんな事する訳がないだろう!あいつも僕が死んだ事は知っている筈だ」

「へえ、『あいつ』ですか。今でも親しげなんですね」



写真を見ても山本に言及しなかった夜神に、私は軽く失望した。
一応問い詰めてみたが、山本が知り合いだと言わなかった明確な理由は、
提出されない。

言い争っている内に、夜神の目が変わり、これは殴ってくる、私も防御、
いや、カウンターだ、と思ったその時。


「二人とも!」


ニアが、今まで聞いた事がないような大声を出した。
驚いて、夜神に対して抱いていた不快な感情が飛ぶ。


「……あなたにしては陰険だと私も思います」

「……」


陰険……私が……。
だが。


「夜神も……Lに対して、変に身構えないで下さい。
 あなたがLを信じて、委ねて下さい」


……それは、私が、夜神に対して最も言いたかった事だ。
言いたい余り、伝え方を考えあぐねていた事を、
ニアは容易く言葉に乗せる。

夜神を見ると、彼もこちらを向いていた。
お互い、言いたかった事をニアに代弁されてしまってばつが悪い。

そう思っている事すらお互いに分かってしまって、思わず笑ってしまった。


「……ニアに、説教されてしまった」


そうだ、夜神。
私たちは二人とも、精神的にはニアより幼いのかも知れない。

既に言い争いをする雰囲気でも殴り合う雰囲気でもなく、
何となく和やかに紅茶を飲んでしまった。





その夜。
珍しく、夜神がソファで眠り込んだ。

昨夜の不眠合戦は黙って聞いていた私の方が不利だったが
話し続けていた夜神は体力を消耗したのだろう。
ニアが不思議そうに覗き込んでいる。


「……かつてない程油断してますね。
 夜神の事ですからポーズかも知れませんが」

「試してみましょうか」


その可能性もないではないと思い、昨夜のようにシャツの前を持ち上げてみた。
現れた白い腹は規則正しく動いていたが、そういえば、と約束を思い出す。
眠かろうが、今夜は嫌でも相手をしてもらわねば。
いや、私を避ける為に寝た振りをしている?

臍の辺りに口を付けてみたが、ぴくりともしなかった。
本当に寝ているらしい。


「な、何してるんですか!」


だがそこで、何故かニアが狼狽えていた。


「……普通、そういうのは、愛の行為かと思います」

「愛」

「はい。よく知りませんが、一般的に、という意味で」



セックスを「愛の行為」と表現するのなら、私と夜神の間には確かに愛が存在する。
だが、そんなものは幻想だ。
「愛」とはフィジカルな物では有り得ない。
そうだとしたら、世の中の一部の職業は成立しない。

かと言って精神的な物かと言えばそれも怪しい。
不定形過ぎる。
私の中のワタリに対する感情と、ニアを含むワイミーズの子ども達に対する心情は
全く別の物だが、それをどちらも「愛」と表現するとしたら乱暴すぎる。
勿論、夜神に対する感情も。

私が、今まで見た中で「愛だ」と言い切れる物があるとすれば
弥ミサの夜神月に対する感情と行動だけだが、それは「自己陶酔」とも言い換えられる。

世の中の人が「一般的」に「愛」と表現している物を、私は理解しないし
きっと今後も理解したいとも思わないだろう。


「……私と夜神はニュートラルな関係です。
 彼を愛しているという事は、ありません」



私が夜神の臍にキスをしたのは、きっと性欲からだろうが、
それはニアに伝える必要はない。

私は、本当に朦朧としているらしい夜神を引きずって、自分の寝室に下がった。 






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