安楽椅子探偵の一日 8 ……キラ事件当時から、時々スキンシップが度を過ぎている奴ではあった。 人慣れしていなさすぎて、他人の身体と家具や物の区別がついていないのかと解釈したりもしたけれど。 それが、僕がキラだと暴いて。 何故か司法の手に引き渡されず、国外に連れ出されて。 そして……あれはロンドンのホテルだったか。 初めて彼の性癖を見せつけられた。 いつもの飄々とした顔で僕の手を縛り、ベッドに括り付けたLは。 今更拷問かと身構える僕を無視して、僕の性器を剥き出してローションでべたべたにしたのだ。 『な、触るなよ!気持ち悪、』 足だけで暴れる僕の胴に跨がって、そしてゆっくりと腰を落として。 『やめろ!無理だ、何なんだよおまえ!』 無理矢理勃起させられた先端が、気持ちの悪い、男の肛門に触れる。 今思えば奇妙な事だが、僕は感染症ばかり気にしていた。 『本当に、どうしたんだよ急に。頭でもおかしくなったのか』 『急?急という事はありませんが。 単純に欲情して、傍に自慰に使えそうな物があった、それだけです』 『……!』 物呼ばわりされて、腹を立てるより前にLの体内に飲み込まれる感覚に、 先からどんどん締め付けられて、濡れた狭い筒を押し広げていく自分自身に言葉を失う。 『っあ……!』 今でも鮮明に思い出してしまう、先がつぶりと入り込んだ瞬間の自分の高い声は許せない程みっともなかった。 対するLは全く声を出さず、くちくちと虫が呟くような濡れた音を立てながらゆっくりと全てを飲み込み。 最後に足の力を抜いて体重を僕の腰骨に預けてから、はぁ……と長い溜め息を吐いた。 『う……そ……』 僕は。 久しぶりの他人の体内と体温に……相手がLだと言う事も忘れて興奮していた。 いや、正確には忘れた訳ではなかったが、それでも構わないと思わせるほどの器を、彼は持っていた。 『動きます。私の自慰なんですから、すぐにイかないで下さいね?』 イくなと言われても。 勘違いしてはいけない、これはセックスなんかじゃない、 Lの気持ち悪い自慰に付き合わされているだけ。 そう一生懸命気を逸らそうとしても、Lのいやらしい腰使いに一溜まりもなかった。 『……あなたにはがっかりですね』 それでも、Lがそれ以上の憎まれ口を叩かなかったのは。 その晩、自分でも呆れるほど何度も復活してしまったからだ。 その時以来、僕は心も体も彼に奪われた。 彼の肉体から離れられない。 もう、女なんかでは満足出来ない。 それは当の僕よりLの方がよく知っていて、だから彼は僕を自由にさせる。 外を出歩かせ、買い物をさせる。 僕の意志がどんなに逃げ出したいと願っても、身体がそれを許さない事を、良く知っているから。 「夜神くん、もう許して下さい……」 「ああ。濡らせた?」 舌が疲れたのか、半開きの口から妙に赤い舌をだらしなく垂らし、目も半眼になっている。 まるで犬だな。 乱暴にその痩せた身体を返し、剥き出しの尻を抱えるとLの背中はびくりと震えた。 「……私、まだ準備出来てないんですが」 「知らないよ」 サディスティックな愉悦に唇を歪めながら、その固く絞られた穴に自分の先端を当てる。 これだけ濡れていれば僕の方は問題ないだろう。 と、目の前の背中が小さく揺れる。 震えて……いや、笑って、いる? 「ふふっ」 「何だよ」 「私に先を越された、腹いせですか?」 その瞬間。 カッと目元が熱くなり、僕は自分にも制御出来ない力でLの体内に捻り込んでいた。 Lは、「ガッ」というような呻きとも吠え声とも付かない音を立てる。 ……ああ、そうだよ。 以前も僕が見破れなかったマジックの種をLが見破った晩、こんな風に酷く抱いた。 腰が抜けるほど欲望を叩き付けて。 そんな八つ当たりで苛立ちを鎮めている僕は、もうどうしようもない。 でも、もっと酷いのは。 Lだ。 「ああっ!夜神くん!痛い、です、」 そんな事を言いながら。 腰をうねらせてもっと深く飲み込もうとする。 「ねえ、もっと、」 「ああ、くれてやるよ」 骨張った白い尻を抱え直し、性感も何もなく獣のように腰を振る。 ああ、ちくしょう! 何でコイツの中は、こんなに。 Lを、苦しませようとしても無駄だった。 乱暴にすればする程、こいつは燃える。 ほら、今だってこんなに足を開かせて。 関節も軋んでいるだろうに、馴らしももしなかったそこも、痛いだろうに。 涎を垂らして悦んでいる。 「ああ、夜神くん、あなた、硬くて、最高です。最高の、」 「最高の棒、だろう?」 「……ええ。あなた以外の棒は、もういらない」 「そう。光栄だね」 この、僕を。 夜神月を。 キラを。 ディルド扱いするなんて。 何て男だ。 今日も、もしかしたらセックスに刺激を与える為にわざと僕を怒らせたのか。 最低だ。 最低の、穴だ。 最低で、嫌になるほど僕の快楽を引きずり出す、穴だ。 僕は折れる寸前まで彼の手足を捻り上げ、抜きもせずに何度も欲望をその身体の奥に注ぎ込んだ。 彼は、ずっと嬌声を上げ続けて何度も射精していた。
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